カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT

2017.03.22
イベント

カオナビ Management Camp 2016 ⑥:「年上の部下」をマネジメントする秘訣とは?――「抜擢人材の成長ストーリー」前編

 
1人ひとりの個性や才能を見て判断し、抜擢する人事制度や社内風土が増えつつあります。では、実際に“抜擢された人材たち”はどのような活躍をしてきたのでしょうか。
そんな疑問に答えるために、「カオナビ Management Camp 2016」Session1では、「抜擢人材の成長ストーリー」と題して、クラウドワークス・成田修造氏とサイバーエージェント・石田裕子氏、SHOWROOM・前田裕二氏の3氏をゲストに迎えてお話を伺いました。
前編となる今回のテーマは、抜擢人材が直面しがちな「年上の部下をマネジメントする局面」について。今をときめく企業の抜擢人材が語る、年下だからこそできるマネジメントの秘訣とは?

 

スピーカー

株式会社クラウドワークス 取締役副社長 COO 成田修造
株式会社サイバーエージェント 執行役員 石田裕子
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二

 

モデレーター
元リンクアンドモチベーション 取締役 /
株式会社JAM 代表取締役社長 水谷健彦

若くして重責を担う“抜擢人材”が増えている

水谷健彦氏(以下、水谷):では、さっそく始めていきたいと思います。よろしくお願いします。

一同:よろしくお願いします。

水谷:今日は「抜擢される側の人材」としてお話していただくわけなのですが、ご登壇いただいているお三方は、若くて、それも今をときめく会社の重責を担っている方々です。いわゆる取締役や社長、そういったポジションなんですよね。

43歳の僕からすると、これには隔世の感があります。少なくとも今から10年くらい前は、そんな時代じゃなかった。今をときめく、すごく注目されている会社の幹部を、若手たちが担うような時代じゃなかったんですよね。

 

元リンクアンドモチベーション 取締役/株式会社JAM 代表取締役社長 水谷健彦 氏

 

最近はIT領域の進化もあって、重責を担う若い方々が増えてきていると思うんです。みなさんは、まさにそのど真ん中にいるわけですが、今後の日本ではその傾向はますます加速するものと思います。

そういう意味では、みなさん自身の「抜擢された側の経験」「こういうことを頑張って成果を出した」「すごく大事にしてきた」といった話は、「これから抜擢人事を検討したい」と考えてらっしゃる企業さんに参考になるものだと思っています。今日は、そういった話をしていきたいと考えています。

ところで、本当にまあ、みなさん若いですね。

前田裕二氏(以下、前田):そう……なんですかね?

石田裕子氏(以下、石田):お2人は若いです(笑)。

水谷:成田さんが今、27歳?

成田修造氏(以下、成田):今年、27歳になります、はい。

水谷:前田さんが……。

前田:僕は今年、29歳です。

水谷:29歳ですか。石田さんが35歳?

石田:そうですね。

年下上司が年上部下に示せるのは「実践」

水谷:まずは「年上の部下をマネジメントする秘訣は?」についてお話を伺いたいと思います。当然、抜擢をされるということは、自分より歳が上の人、経験が上の人を部下としてマネジメントする役割を担うわけですよね。

チヤホヤしているだけでよければ簡単かもしれませんが、時には仕事のクオリティの面で「厳しいこと」を指摘する必要が絶対にあるわけですよね。そういったとき、どうしてきたのかを聞いていこうと思います。では、まずは成田さんからお願いできますか?

成田:まず僕の会社での役割は、各人の能力が、会社のビジョンや理念にまっすぐ向かうように、ある意味統合し、昇華させていくことです。メンバーそれぞれの役割をどれだけ全うできる環境を作り上げるかに集中することが、僕よりも経験ある人材をマネジメントする大きなポイントだと意識しています。

 

株式会社クラウドワークス 取締役副社長 COO 成田修造 氏

 

そのために大前提として、会社のビジョンや理念、1つの大きなミッションのなかでなさねばならないことをフラットに伝えます。社会からの要請に基づいて 会社としてやらなければならないものがなんなのかを適切に理解し、メンバーに伝達することに集中しています。

それが聞き入られるように、自分の感情を抜きにしてフラットになれるか。ここに重点を置きながら、日々のコミュニケーションをしています。それは社長であってもあまり変わらないです。社長に対しても同じように接していますし、一新卒に対しても同じように接します。

水谷:執行役員や取締役の仕事として、全体のデザインをして、組織が円滑に動けるようにする役割は、確かにありますね。

一方で、ある局面において影響力を発揮しなきゃいけないこともありますよね。それは場合によっては「それじゃダメだぜ」と年上の部下にダメ出すことでもあるわけじゃないですか。

成田:ええと、それは……、意外に「ダメだ」と言い切ります。

水谷:おー、言っているんですね。

成田:はい。「ダメなもんはダメである」と。ただ、そこで自分自身が、まだ経験で示せるものが少ない。年齢が低い、あるいは業務経験が少ない分、相対的には示せるのは実践です。そのため、自分が率先垂範しながら、どうすればいいのかを具体的に要望として伝えるようにしています。

これはテクニカルな話ですけど、(営業しなくてはいけない時には)営業も自分でやりますし、プロダクトをこういう風にしなければならないとなれば、自分で考えて伝えます。だから、大御所の大先輩方のように「実績がなにかを語っている」というよりは、「自分が率先垂範することで示す」ことを意識しています。

もちろん、「ベースとなるスキルがないと、マネジメントはできない」ということが前提ではあるとは思います。

水谷:なるほど。実際に仕事の能力をちゃんと見せつける、ということですね。

成田:「見せつける」という表現はおこがましいですが、自分ができる範囲で、「その人たちよりもこれはうまくできる」と思ったものに関しては、行動して示す。これは若い分、意識的に行っています。

個々の「強み」にフォーカスして、チームとして「成果」を出す

水谷:なるほど。石田さんからもいろいろお話が出てきそうですけど、どうですか?

石田:そうですね。私の場合は、社会人4年目くらいの時にいわゆる“抜擢”をしていただいて、初めてマネジメント職に就きました。いろいろと無数に失敗して、たどり着いたのは、「無理にマネジメントをしようとしない」です。

そのため、年上年下、異性関係なく、チームで成果を出すこと。シンプルにそこだと思って、今までやってきましたね。

水谷:なるほど。私は企業の研修などもやっていて、実際に年上の部下を抱えるマネージャーの方々から相談されるんですよね。そのなかでよく出てくるのが、「本当はもっと厳しく言わなきゃいけないのに言えない」「言っても受け取ってもらえない」ということがすごく多いんですよ。

そういう意味では、極力マネジメントしないというのは、相手が「優秀な人」であれば成立しますが、そうじゃない場合は難しいところがあると思うんです。そのあたりは、どうお考えになりますか?

石田:そうですね。まずは、それぞれの強みを認識することからかなと思っています。それが「結局、マネジメントしている」と言われればそうなんですけど。

 

株式会社サイバーエージェント 執行役員 石田裕子 氏

 

チームで成果を出すには、「この人にはこういう役割、目標をセットしよう」「逆にこの人にはこういうミッションを与えたほうが伸びる」を、その都度判断して、成果を出す体制を構築するのが仕事だと思っています。

成田:嫌われる、あるいはその人を傷つけてしまうのではないかという、その人がそもそも持っている根源的・人間的なものを、基本的には取っ払う、と。

石田:そうですね。

水谷:なるほど。石田さんは、それぞれの強みをわかったうえで、それを引き出す働き方をすることで、先ほど僕が言ったような「厳しく言わなきゃいけない局面」は……まあ、ゼロにはならないでしょうけど、少なくできる感じですか?

石田:そうですね。でも、あまり嫌われたくないという発想は、もともと持ってはいないんですが。

水谷:力強いですね(笑)。

石田:(笑)。ずっと「あなたはここがウィークポイントだよ」と言い続けるよりも、その人の伸ばせる力にフォーカスをしたほうが、チームとしてはいいケースもあります。場合によっては、ちゃんと弱みに向き合って、そこをどんなに嫌われようがずっと言い続ける局面も必要だと思いますね。

 

自分をさらけ出し、相手から信頼を引き出す

水谷:前田さんはいかがです?

前田:僕はですね、個人的に印象的なエピソードとしては、一番最初に50代の方をマネジメントすることになりまして(笑)。

 

SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二 氏

 

(一同笑)

水谷:ええと、前田さんが何歳のときですか? それは(笑)。

前田:26……ですね。

水谷:なるほど。

前田:質問が、「年上の部下をマネジメントする秘訣は?」ということなんですが、結論から言うと、まずは徹底的にリスペクトしてもらえるための努力をします。リスペクトの方向性には、ハード面とソフト面の両方があると思っています。

ハード面では、端的に言うと、僕が彼よりできる部分を徹底して見せつける。例えば、僕は営業が得意です。彼と一緒に営業に行って、自分のほうができる部分をはっきりと見せる。これをくり返しているうちに、次第に頼ってもらえる構造になります。これがハード面ですね。

 

 

彼からリスペクトされるような営業成果を出すには、その裏側において、圧倒的な努力や仕事へのコミットメントが必要です。それをやりきる自信があったので、彼の前では成果を出し続けていました。

ソフト面では、彼が抱えていた「子供の進路をどうする?」など、一見仕事が全く関係ない問題をテーマに、飲みに行ったりしていました。1人の人間として彼をリスペクトし、リスペクトされる。そういった相互の信頼関係を強く意識していました。ハードとソフトの掛け算だったような気がしていますね。

そして気がつくと、ある時、彼からすると僕は子供に親しい年齢だと思うんですが、仕事上では信頼できるパートナーになっていました。

水谷:……すさまじい人間力、だと思いますね(笑)。そのハード面……仕事のスキルを見せつけて、尊敬やリスペクトを集める。これ、よくわかるんですよ。それを営業の局面でやったんでよね。

 

 

もう一方、子供の進路相談を夜な夜な聞いて、その信頼や感謝も集めたということだと思うんですが。まず、ふつうは「相談をしてくれない」と悩むじゃないですか。そこは何かあるんですか?

前田:人間関係は鏡みたいなものだと思っています。まず、僕の悩みや弱みを打ち明けて、すごく心が通じ合う状態を作っていくということですかね。

僕は、組織というものは感情で動いていると思っています。左脳で動かそうとがんばりますが。まさに僕も今日、ここに来るまで組織の問題に立ち向かっていました。

組織のほとんどの問題について、一見、左脳的なロジックで捉えてしまいます。でも、その裏側には「こいつのこと、あまり好きじゃないよな」といった、どちらかというと感情的な要因があったりします。その根っこ部分の膿みたいなものを出さないと、表面的にはよくても、根本的には解決していない状態になってしまうなと。

とにかく僕は、社員が抱えている仕事上での悩みより、どちらかというと、その人の人生全体における課題や悩みに向き合うように意識しています。それを「ソフト」と表現しました。

水谷:自分から先に吐露することで、相手からも引き出すということですね。そして、相談に対しても真剣に真摯に向き合っている。そして信頼関係を築き上げ、結果的に上司・部下の適切な関係になっていくんですね。

前田:そうですね。今のは、どちらかというと僕個人としての目線です。1つレイヤーを上げて、「どんな組織だったら今の話がワークするのか」という、組織側の目線でも考えると、ストック or フローの視点が大事だと思っています。その人が会社に対して貢献してきたこと、いわゆるストック的なものが評価される場なのか、あるいは、瞬間最大風速的に出したフロー的成果が評価される場なのか。組織の評価体系や空気感がどちらに寄っているかによって、自分のやり方が通用するかどうかが変わるかなと認識しています。

 

 

もともと僕は、投資銀行出身ということもあって、思想がフロー寄りなんですよね。投資銀行では機関投資家向けに日本株の情報提供をする仕事をしていたんですけれど、お客様は、「トヨタは、20年前はこういう株の動き方をしたんだよな」という昔話を聞きたいわけじゃない。昨日起きたニュースに対して、マーケットが今日、そして将来、どういうリアクションするか、すなわち、現在〜未来の情報や洞察に対して価値を置いているクライアントが多かった。

よって、現在進行形の努力がインパクトにつながりやすいビジネスだった。だからこそ、僕みたいな新卒1年目が、20年目の社員の人たちに立ち向かって、彼らのストックに対して、フローの努力で立ち向かっていくことができた、越えていくことができた。たぶんそれは、組織のルールに恵まれていたんだと思っています。

僕は、ストックに寄り添って生きている人たちをあまり増やしたくないと、少なくとも今の自分の組織においては思っています。この瞬間をすごい頑張っている人たち……当然、会社の過去の栄光に貢献してきてくれた人たちに対するリスペクトは絶対忘れちゃいけないんですが、とはいえ、今出しているバリューをちゃんと見極めて、それに報いていくことは本当に大事だと思っています。

たぶん、親会社であるDeNAもある種投資銀行的に、フロー的な評価軸を持っていたのだなと思います。そのおかげで自分は、インターネット事業の経験が人一倍浅い中で、フロー的現在進行形努力でもって、価値を出せたのかなと。

水谷:なるほど。だから、前田さんの考え方と、その組織の「ストックとフローだったらフローじゃん」という価値観がすごく合っていたということですね。

部下が当事者意識を持つためには?

水谷:ちなみにクラウドワークスさんは、前田さんの話にあった「ストックとフローだったら、フロー」だとか、組織マネジメントのための「ルール」みたいなものはありますか?

成田:うちはどちらかというと、ストック重視だと思いますね。当然、業務なので、「そのクオーターでどうこう」というフローな話はあります。とはいえ、会社に対して中長期でどう貢献してくれるかということは、人材育成プランも含めて全社的に考えています。多少クオーターでダメでも「じゃあ次どうする?」と考えようとする文化が強いと思いますね。

たぶん、サイバーさんもそっちのほうだと思うんですけど。

石田:まさにそうですね。

成田:あと、ルールは結構明確に決めますね。「この組織においては、これがいいよね」とか。

うちのスローガンというのが、「いいチームを作りましょう」なんです。各チームで「いいチームの定義」をそれぞれ作ってもらっています。

そのルールに基づいて、「今、いいチームになっていますか?」を日々問うて、バリューに基づいて自己申告で評価をするような仕組みを作ってみて、「自分なりにどう振り返りますか?」とリフレクションできる場を設けることで、少しでも「いいチーム」という抽象的な価値観が循環していくような仕組みなんです。

前田:それ、おもしろいですね。あえて「いいチーム」と抽象的に表現することで、定義をぼやっとさせているじゃないですか。各チームに主体性と当事者意識を持たせるために、抽象的なテーマ設定にする。

成田:そうです。まさに。

前田:すごいですね。なるほど。へー、おもしろい。

水谷:あえて抽象度を高めていますよね。

成田:「いい」もひらがなで「いい」とすることで、感情的な「いい」になりやすいと思うんですよね。

「良い」と漢字にして書いちゃうと、なにか成績の「良し悪し」のようなものに結びつきがちなので。そうではなく、「あなたとしていいものはなんですか?」と定義するために、ひらがなでわざわざ使うという工夫をしています。

前田:おもしろい。なるほど。

水谷:もともとは今の話、「年上の部下をどうマネジメントするか?」でしたけど。

成田:すいません(笑)。

水谷:いや、大丈夫ですよ。本人側の考え方、例えば「ソフトとハードの両方でちゃんと影響力を出そう」も、組織のルールですよね。そういった要素を組み合わせることで、抜擢された側によりマネジメントしやすい環境を提示できるんでしょうね。

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