カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
顔と名前の一致で「生産性向上」と「ミス抑制」が実現できる!?
~ 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 岩本研究室との共同研究結果~
カオナビHRテクノロジー総研は、「『顔と名前の一致』が社員のパフォーマンスに及ぼす影響」について慶應義塾大学大学院経営管理研究科 岩本研究室と共同研究を実施しました。本稿では本共同研究の結果について記載しております。
共同研究の背景
マネジメントにおいて「社員を理解する」ことは非常に重要なことと考えられます。「社員を理解する」ことで、相手に合わせた業務を割り振ることができますし、「理解されている」と感じることは、社員のやる気にも良い影響を与えることが期待できます。
当社ではクラウド人材管理ツール『カオナビ』の提供を通じて、人事、マネージャー、経営者、同僚などが「社員を理解する」ことのお手伝いをしております。
しかしながら、依然、多くの企業においては、社員の個別性を無視した画一的なマネジメントが行われ、多くの社員が埋もれ、潰れ、社会的な損失になっているという現状があります。
こうした課題意識の下、「社員を理解する」ことの重要性を示すため、この度、慶應義塾大学ビジネス・スクール 岩本研究室と共同で実験・研究を実施致しました。
今回は、「社員を理解する」ことの第一歩として、「顔と名前の一致」という最もシンプルなポイントに絞って実験・研究を行っています。
共同研究の内容
今回は以下の要領にて実験・研究を実施致しました。
- 実験対象:社会人および大学院生 14名
- 実験内容
- 図表1の紙面を配布
- 試験官より声がけを実施(Aグループは名前を呼び、Bグループは名前を呼ばない)
- 図表1の紙面を用いて1分間のテストを5回実施(図表2のように横に並んだ数字の一桁目の足し算を繰り返す)
- テスト終了後にアンケートを実施
<図表1:実験用紙面イメージ>
<図表2:作業イメージ>
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、様々な角度からt検定による分析を実施
分析結果①:名前で呼ぶことで「生産性が向上する」可能性
図表3の通り、Aグループ(名前で呼ばれたグループ)の正答数はBグループの正答数*を常に、かつ大きく上回っていました。これは、名前で呼ばれることで、参加者のやる気が高まり、回答効率が向上したと考えられます。
この結果を職場に応用した場合、職場のマネージャーや経営者が社員に対し名前を使って声がけすることで、やる気のアップを通じて生産性が向上する可能性を示しています。
ただし、本データをt検定にかけたところ、有意差は検出されませんでした。平均値に明確な差があることから、これは、7人×2グループと、参加者数が少人数であったことが大きな要因であり、参加者数を増やして同じ実験をした場合、有意差が検出される可能性は高いと考えております。
(*正当数は時間内に正しく回答できた件数の集計であり、100が最高値の点数ではありません)
<図表3:正答数の集計結果>
分析結果②:名前で呼ぶことで「ミスを抑制」できる可能性
図表4の通り、Aグループ(名前で呼ばれたグループ)の誤答率はBグループの正答数を常に下回っていました。これは、名前で呼ばれることで、参加者のやる気・緊張感が高まり、注意力が向上した結果、誤答が減ったということが考えられます。
この結果を職場に応用した場合、職場のマネージャーや経営者が社員に対して名前を使って呼びかけを行うことで、やる気・緊張感のアップを通じてミスを抑制できる可能性を示しています。
ただし、本データをt検定というデータ分析手法で分析したところ、有意差は検出されませんでした。これは、7人×2グループと、参加者数が少人数であったことが大きく、参加者数を増やして同じ実験をした場合、有意差が検出される可能性は高いと思っております。
<図表4:誤答率の集計結果>
分析結果③:名前を呼ばれたことをみんな認識している
図表5の通り、参加者は名前で呼んでもらった(もらわなかった)を全員が認識していました。名前で呼ぶという工夫をしている(いない)ことは確実に伝わっているようです。その上でどのような成果に結びつくかは、実験結果①、②などの通りです。
<図表5:名前を呼ばれたことの認識状況>
今後の課題
- 統計的に有意な結果は出ていない
分析結果①、②の点に関しては、t検定により統計的な有意差を検出することができませんでした。上述した通り、参加者数を増やして同様の実験を行った場合、有意差が検出される可能性は高いと思っております。
- 持続力の違いを確認できなかった
今回の実験では、継続的(5セット)に渡りテストを行うことで、参加者の疲労を蓄積し、疲労時の持続力をグループ間で比較することを予定していました。しかし、想定より受検者の体力が高く、5セットでは疲労による正答数減少、誤答増といった傾向をみることができませんでした。より実験の負荷を上げることで、名前を呼ぶことによる、持続力向上効果をみることができるかもしれません。
- 不正発生抑止効果を確認できなかった
社員の名前を呼ぶことで、「不正発生を抑止できるのではないか」という仮説を持っております。感覚的な話ですが、「ちょっと」とか「〇〇社さん(派遣元の会社名)」などと呼ぶよりも「山田さん」と言われた方が、親密感や見られている感が増し、不正が減るというストーリーには説得力を感じます。
今回の実験はシンプルなテスト形式であり、不正の発生する要素がなかったため、この仮説については確認できませんでした。実験内容を工夫することで、こうした仮説の可否が確認できるでしょう。
まとめ
本実験・分析の結果「社員を名前で呼ぶ」ことで「生産性向上」「ミス抑制」を実現できる可能性を確認できました。ただし、統計的な有意差は検出できておらず、今後の追加検証が待たれるところです。
「社員を名前で呼ぶ」というのは、「社員を理解する」ことの第一歩であり、第一歩だけでも効果がある可能性が見えたことには、一定の意義があると認識しております。
「顔と名前の一致」に加えて経歴、性格、スキル、希望など、より深く社員を理解することで、個別化(Personalize)されたマネジメントが実現し、より高い効果が得られるのではないでしょうか。
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 岩本研究室のコメント
【プロフィール】
東京大学工学部金属工学科卒。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。その他、山形大学客員教授、株式会社ドリームインキュベータ特別顧問、一般社団法人ICT CONNECT 21理事、一般社団法人日本RPA協会名誉会員、HRテクノロジー大賞審査委員長、HR-Solution Contest審査員長など様々な役職に就く。
今回は初めての試みということで,小さいサンプル数での小実験を実施しました。サンプリングバイアス等の影響があり,統計的に有意な結果は出ませんでしたが、今後の研究ならびにサービス実装につながる一定の示唆は得られたと考えています。また,ビジネス実務の文脈の中でこのような実験
を行ったということ自体,大きな意義があるでしょう。今後はよりサンプル数を増やしての実験など,追加の検証が重要になってきます。これからの仮説検証を通して,管理職の人材マネジメントをサポートする有益なノウハウ・ツールの開発が実現することを期待しています。
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