カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
パワハラ防止法のその先へ ハラスメントの脅威にどう対抗するか ~ハラスメント実態調査<後編>~
サーベイの背景
2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」は、開始時点では大企業が義務化の対象でしたが、2022年4月に中小企業にも広がり、厚生労働省が定めるパワーハラスメント防止措置をほぼすべての企業が講じなくてはならなくなりました。「パワハラに対する方針の明確化や周知」「相談窓口の設置等の体制整備」「事後の迅速・適切な対応」などが事業主に求められています。また「個々の違いを尊重し、活かそう」という“ダイバーシティ&インクルージョン“は、もはや経営上当然の考えのように思われますが、だからこそハラスメント事案には以前に増して世間の目が厳しくなっています。
そこでハラスメントの実態を把握すべく、カオナビHRテクノロジー総研では2022年2月に職場におけるハラスメント経験についてのwebアンケートを実施しました。<後編>である今回は、「ハラスメントを受ける影響」あるいは「実際に受けなくとも、職場で見聞きすることが与える影響」に焦点を当てていきます。
サーベイの概要
今回は以下の要領にてインターネットを用いたサーベイを実施致しました。
- サーベイ対象:20歳以上60歳未満の正規雇用者1,364名(有業者から、自由業者およびアルバイト・パートタイム、派遣社員/社長相当者を除いている)
- サーベイ期間:2022年2月8日(火)~2022年2月10日(木)
- サーベイ内容:Web上でハラスメントについての質問項目に、選択・記述式で回答
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)
前編の調査結果のまとめ ~誰が、誰から、どのように受けるのか~
<前編>で明らかになった調査結果は、以下の通りです。
- 調査結果① 直近1年で約1割がハラスメントを受けた経験あり。「不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない」という人も15%存在
- 調査結果② 年代別では大きな差はなく、役職別では「部長相当」がハラスメント・不快な言動を受けやすい傾向に
- 調査結果③ 業種別では「医療・福祉」「教育」で、不快な言動を受けた人が多い
- 調査結果④ ハラスメントや不快な言動を受けた人のうち、5割以上は「直属の上司」から。3割強は「直属の上司以外の上位職」、2割強は「同僚」からも
- 調査結果⑤ 具体的な言動・行為を提示して質問をすると、「ハラスメントや不快な言動の経験あり」の人は41.6%に上昇
- 調査結果⑥ 全回答者のうち3割強が、パワーハラスメントもしくはそれに類する言動を直近1年で経験している
- 調査結果⑦ パワハラの次に多いのは、カスタマーハラスメントもしくはそれに類する言動で、全回答者の18.6%が直近1年で経験
- 調査結果⑧ 男女比較では、女性がハラスメントや不快な言動を受けたと回答する割合が若干高いが、男性の方が受けやすいハラスメント種類も存在
調査結果⑨ ハラスメントや不快な言動は、ストレスや人間関係の悩みを引き起こす
<前編>では、直近1年で回答者の約1割がハラスメントを受けた経験があり、「不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない」という人も15%存在するという調査結果を掲載しました。約4人に1人が、ハラスメントあるいはそれに類するような言動を受けているということになりますが、その人たちの感情・感覚にネガティブな影響があるだろうことは、想像に難くないでしょう。
※1 以下の項目として「職場でストレスを感じること」および「職場での人間関係に悩むこと」
※2 あり群およびなし群のカッコ内数字は回答者数(以降の図も同様)
直近1年間、職場で「明確にハラスメントと感じる言動を受けた」あるいは「不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない」という人を「あり群」、「ハラスメントは受けていない」という人を「なし群」とし、図1を作成しました(図4まで同様)。「直近1年以内の職場でのあなたについて伺います。以下の項目は、どの程度当てはまりますか。」という質問で、「職場でストレスを感じること(=ストレス)」「職場での人間関係に悩むこと(=人間関係の悩み)」の頻度を回答してもらった結果が図1です。
ストレスについて、あり群で「よくある」が53.7%と過半数をこえており、なし群の16.9%とは36.7ポイントもの差があります。人間関係の悩みについても、あり群では「よくある」が38.4%で、なし群の7.0%と31.4ポイントもの差があります。「よくある」「たまにある」を合計すれば、あり群はストレスが94.0%、人間関係の悩みが83.2%となっており、ハラスメントを受けることはストレスや人間関係の悩みを抱えることと直結していることが分かります。
調査結果⑩ ハラスメントや不快な言動を受ける人は、役立ち不安や自分を尊重したいという気持ちを持つ傾向あり
※ 以下の項目として「今の会社で『自分が役に立っているのか』不安になること」および「『もっと自分自身を尊重する気持ちになれないものだろうか』と思うこと」
図2は「今の会社で『自分が役に立っているのか』不安になること(=役立ち不安)」と「『もっと自分自身を尊重する気持ちになれないものだろうか』と思うこと(=自尊感情)」の頻度の回答結果となっています。これも、なし群と比較してあり群が、全体的に頻度が高い傾向になっています。
「自尊感情」については、あり群の中でも「明確にハラスメントと感じる言動を受けた(=明確なハラあり群)」か「不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない(=不快な言動あり群)」のかで、差が大きくでており、明確なハラあり群で特に頻度が高くなっています(図3)。
役立ち不安や自尊感情については、ハラスメント等を受けるから低くなるのか、あるいはそれらの感情・感覚を持ちやすい人がハラスメント等を受けやすいのか、ひょっとするとどのどちらもあるのかはこの調査結果からのみでは判然としませんが、相関があるということは明らかになりました。
一方で、ハラスメント等の有無による差があまり出なかった項目もありました。
調査結果⑪ 仕事の楽しさや成長実感は、ハラスメントや不快な言動の影響を比較的受けにくい
※ 以下の項目として「『仕事が楽しい』と思うこと」および「仕事に関連した成長を感じること」
図4は「『仕事が楽しい』と思うこと(=仕事の楽しさ)」「仕事に関連した成長を感じること(=成長実感)」の頻度の回答結果です。「よくある」「たまにある」の合計で見ると、なし群の方が若干多く、頻度が高い傾向にあるとはいえますが、これまでの項目に比べると差は大きくはありません。成長実感に関しては、あり群・なし群の間に統計的に有意な差はないということも分かりました。
ここまでの結果から、ハラスメントと個人の心身の健康や健全さには密接な関係がありそうですが、仕事に対する感じ方にはあまり影響がなさそうです。むしろ、仕事の楽しさと成長実感については、なし群も含めて高いとは言えない状況です。昨今、エンゲージメント、中でも「ワーク・エンゲージメント」という概念が人事・組織マネジメントにおいて注目されています。ワーク・エンゲージメントは、組織というよりは「仕事そのもの」に対してポジティブな思いを持つことです。悲観的に言えばハラスメント対策をしてもワーク・エンゲージメントは恐らく上がらないだろうといえますが、楽観的に言えばハラスメントがある職場でもワーク・エンゲージメントは変化があまりないだろうと言うこともできるでしょう。
調査結果⑫ 明確なハラスメントは、被害を受けた人の同僚が知っているかもしれない
ハラスメントがあったと報告が誰かから上がった際に、マネージャーや人事として、まず何をするでしょうか。被害を受けた人のケアが第一ではありますが、その人の身元は明らかにしないよう注意しつつ周りの人から情報を聞くというのは自然なプロセスでしょう。
※ 以下の項目として「上司に自分の悩みを相談すること」および「同僚に自分の悩みを相談すること」
図5は、直近1年間、職場で「明確にハラスメントと感じる言動を受けた」という人を「明確なハラあり群」、「不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない」という人を「不快な言動あり群」、「ハラスメントは受けていない」という人を「なし群」とし、上司あるいは同僚に悩みを相談する頻度についての回答結果をグラフとしました。まず分かるのは「よくある」「たまにある」の合計値は、なし群<不快な言動あり群<明確なハラあり群という順番で高くなっており、ハラスメント等を受ける人の方が社内の人に相談する頻度が高い傾向にあるということです。
またいずれの群でも、上司に悩みを相談するより、同僚に相談する人が多いようです。特に、明確なハラあり群での差が大きいですが、不快な言動あり群も一定の差があります。<前編>の調査結果④で、明確なハラあり群と不快な言動あり群の5割を超える人が、そのハラスメントや言動を「直属の上司」から受けていることが分かりました。ハラスメントを受けている上司に悩みを相談するというのは、あまり考えられないでしょうし、この結果は自然なものでしょう。明確なハラあり群では、同僚に悩み相談をよくする人、たまにする人は合わせて5割以上いるので、その相談の中でハラスメントに触れられることもあるのではないでしょうか。
調査結果⑬ 直近1年でハラスメントを”見聞き”したことがあるのは18.4%、「見聞きしたことはあるが、それがハラスメントとまで言えるのか分からない」という回答も19.6%
自分はハラスメントを受けなくとも、職場で誰かがハラスメントを受けるのを見聞きするのも、心地が良いものではありません。
-
Q.直近1年間で、あなたの職場でハラスメントを受けたという話を見聞きしたことがありますか
※回答者数1,364
図6は「直近1年間で、あなたの職場でハラスメントを受けたという話を見聞きしたことがありますか」という質問の回答結果です。直近1年でハラスメントを”見聞き”したことがあるのは18.4%という結果になりました。さらに「見聞きしたことはあるが、それがハラスメントとまで言えるのか分からない」という回答も19.6%で、合計すると38.0%がハラスメントもしくはハラスメントに類する言動を見聞きしていることになります。
調査結果⑭ ハラスメントや不快な言動を見聞きする人も、ネガティブな感情・感覚を抱えやすい
ハラスメントを実際に受ける人は、様々なネガティブな感情・感覚を持つことを調査結果⑨と⑩で紹介しましたが、見聞きする人はどうでしょうか。
図7は「自身はハラスメントを受けていない人」の中で、ハラスメントあるいはハラスメントとまで言えるかわからないが類する言動を見聞きしたことがある人を「見聞きあり群」、まったく見聞きしたことがない人を「見聞きなし群」としています。ハラスメントを受ける相関を除いて、見聞きの経験との相関を見るため「自身はハラスメントを受けていない人」のみに焦点を当てています。
調査結果⑨と⑩の数字ほど鮮明な差がある訳ではないですが、どの項目も見聞きあり群と見聞きなし群で統計的に有意な差がある結果となりました。ハラスメント等を見聞きする経験も、直接受けるほどではないものの、個人の心身の健康や健全さと関係がありそうです。また調査結果⑪と同様で、「仕事の楽しさ」「成長実感」はハラスメントの見聞き有無による差はあまりありませんでした。
調査結果⑮ 実際にハラスメントや不快な言動を受ける人も、見聞きする人も、転職意向を持ちやすい
ハラスメントや不快な言動を受ければ「転職したい」と思うのは、当然と言えば当然ですが、受けない人とどれだけの差があるのでしょうか。
※ 以下の項目として「『転職したい』と思うこと」
図8は直近1年以内の職場での「『転職したい』と思うこと」の頻度を聞いた結果を、直近1年以内の職場でハラスメントもしくは不快な言動を受けたことがある人(=あり群)と、それらがない人(=なし群)で分けて掲載しています。あり群では、「よくある」が29.3%と3割弱、「たまにある」が40.3%となっています。一方で、なし群では「よくある」が9.4%、「たまにある」が25.6%となっており、その差は歴然です。
図9は直近1年以内の職場でハラスメントがないと回答した人のみに焦点を当て、図8と同様、直近1年の職場で転職意向を感じる頻度を聞いた結果を、ハラスメントやそれに類する言動を見聞きしたことがある人(=見聞きあり)と、それらを見聞きしていない人(=見聞きなし)に分けて掲載しています。さすがにハラスメントを受けた経験の有無よりは、2群の差は大きくないものの、統計的に有意な差が見出されました。見聞きあり群では「よくある」が16.9%、「たまにある」が33.3%と、合計すると50.2%と過半数をこえてきます。見聞きなし群とは20ポイント程度の差があり、ハラスメントや不快な言動の周囲への影響も示唆されています。
さいごに ~どのようにハラスメントを防止・対応するのか~
<前編>と<後編>に渡り、ハラスメント実態調査の結果を掲載してきました。明らかになった調査結果は以下となります。
- 調査結果① 直近1年で約1割がハラスメントを受けた経験あり。「不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない」という人も15%存在
- 調査結果② 年代別では大きな差はなく、役職別では「部長相当」がハラスメント・不快な言動を受けやすい傾向に
- 調査結果③ 業種別では「医療・福祉」「教育」で、不快な言動を受けた人が多い
- 調査結果④ ハラスメントや不快な言動を受けた人のうち、5割以上は「直属の上司」から。3割強は「直属の上司以外の上位職」、2割強は「同僚」からも
- 調査結果⑤ 具体的な言動・行為を提示して質問をすると、「ハラスメントや不快な言動の経験あり」の人は41.6%に上昇
- 調査結果⑥ 全回答者のうち3割強が、パワーハラスメントもしくはそれに類する言動を直近1年で経験している
- 調査結果⑦ パワハラの次に多いのは、カスタマーハラスメントもしくはそれに類する言動で、全回答者の18.6%が直近1年で経験
- 調査結果⑧ 男女比較では、女性がハラスメントや不快な言動を受けたと回答する割合が若干高いが、男性の方が受けやすいハラスメント種類も存在
- 調査結果⑨ ハラスメントや不快な言動は、ストレスや人間関係の悩みを引き起こす
- 調査結果⑩ ハラスメントや不快な言動を受ける人は、役立ち不安や自分を尊重したいという気持ちを持つ傾向あり
- 調査結果⑪ 仕事の楽しさや成長実感は、ハラスメントや不快な言動の影響を比較的受けにくい
- 調査結果⑫ 明確なハラスメントは、被害を受けた人の同僚が知っているかもしれない
- 調査結果⑬ 直近1年でハラスメントを”見聞き”したことがあるのは18.4%、「見聞きしたことはあるが、それがハラスメントとまで言えるのか分からない」という回答も19.6%
- 調査結果⑭ ハラスメントや不快な言動を見聞きする人も、ネガティブな感情・感覚を抱えやすい
- 調査結果⑮ 実際にハラスメントや不快な言動を受ける人も、見聞きする人も、転職意向を持ちやすい
ハラスメントや不快な言動がなされる、あるいはそれらの言動の見聞きの現状やその影響についても本調査で明らかにしましたが、ハラスメントはどのように予防すればよいのでしょうか。あるいは、起きてしまった際に、どのような対応がなされるとよいのでしょうか。2022年4月に中小企業も対象となったパワハラ防止法は、事業主に「パワハラに対する方針の明確化や周知」「相談窓口の設置等の体制整備」「事後の迅速・適切な対応」を求めています。また厚生労働省のハラスメント対策総合サイト「あかるい職場応援団」は、取組事例や解説動画、マニュアル等の資料など多くのリソースを見ることができるため、参考になる部分が大いにあるでしょう。
働く人自身は、どのような対策を望んでいるのでしょうか。
※ 回答者数1,364
最も多く選ばれたのは「社内の人が対応するハラスメント相談・通報窓口」で29.4%、次点は「ハラスメント行為の厳罰化」で28.8%、続いて「社外の人が対応するハラスメント相談・通報窓口」で27.6%となっています。これらの施策は多くの人が望むことから、実施あるいは強化することで、従業員に広くハラスメント対策の意思を見せることもできそうです。
しかしながら、広く期待されるからといって「ハラスメント防止・対応策として有効か」は、また別の話です。その証左の一つとして、ハラスメントを受けているか否かで、期待する対応策の傾向が変わります。
図11は期待するハラスメント防止・対応策を、ハラスメントや不快な言動の有無別に表しています。直近1年間、職場で「明確にハラスメントと感じる言動を受けた」人を「明確なハラあり群」、「不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない」という人を「不快な言動あり群」、「ハラスメントは受けていない」という人を「なし群」としました。
明確なハラあり群となし群の間で、大きな差がある項目として「社外の人が対応するハラスメント相談・通報窓口(10.7ポイント差)」「ハラスメントの実態や意識に関する調査の実施(13.7ポイント差)」が挙げられます。ハラスメント相談・通報窓口は、なし群では「社内」に期待する人が多い一方で、明確なハラあり群と不快な言動あり群では「社外」に期待する人の方が多くなっています。社内の相談・通報窓口は、適切な方法で運営されればもちろん機能するものですが、被害に近い人からするとそれだけでは不十分に感じるのかもしれません。秘密は守られるのか、もみ消されたりしないのか、逆に嫌がらせをされたりしないのか…実際はなかったとしても、そのような不安は沸くものでしょう。実態・意識調査についても、なし群とその他の群で大きく差が開いています。当事者の方が実態や意識を悲観的に見ており、人事や経営サイドに把握をしてほしいと思っているのか、あるいは自身の受けている言動を告げる機会がほしいのかもしれません。不快な言動あり群の特徴としては、「就業規則や労使協定の制定による社内方針の明確化や周知・啓発」に期待を寄せる人が相対的に多いことが挙げられます。この群は不快ではあるが、ハラスメントとは言い切れない言動をされているため、「自分は相談・通報窓口や相談機会を使える対象なのか」から、悩むのではないでしょうか。まずは会社としてハラスメントに対する毅然とした姿勢を見せてもらい、そのような言動を抑制してほしい、あるいは自分が受けている不快な言動をハラスメントだと定義してほしい、そんな気持ちがあるのかもしれません。そして、明確なハラあり群や不快な言動あり群の方が、なし群よりは、切実かつリアリティのあるニーズを持っているでしょうから、これらの施策が実際には被害を受ける人には力になれる可能性が高そうです。
ハラスメントの防止・対応策はどうしても「事業主」の責務が強調されがちですが、パワハラ防止法には実は「労働者」の責務規定が存在しています。その規定の一つに「ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うこと」があります。働く人はまず、自身が加害者にならぬよう、学習をする必要があります。では実際にハラスメントが起こってしまった時には、どうすべきなのでしょうか?
ヒントとして「バイスタンダー」という概念があります。バイスタンダー、直訳では「傍観者」ですが、もともとは救命の現場で使われる用語で「けがや急病人が発生した際にその場に居合わせた人」のことを指すようです。ハラスメントの文脈では、転じて「ストリートハラスメントやデートDVなどの性暴力が起きようとしているときに、その場に居合わせた人」のことを指します(*1)。バイスタンダーが事態にどう介入するかは、組織内のハラスメントの防止・対応においても重要でしょう。介入と一口に言って、加害者に直接やめさせるよう声掛けをするのも一つですし、それが難しければ、やりとりの記録を取る、あるいは事後に被害者にフォローを入れるなど、やり方は様々です。そのような事態に出くわした際にとっさに行動をとることは意外と難しく、何等かのトレーニングがあった方がよいでしょう。その意味では、働く人の期待は薄いものの「従業員へのハラスメントに関する研修や情報の提供」は、加害者にならないようという目的だけでなく、よきバイスタンダーとして振る舞えるよう、広く実施することが求められるのではないでしょうか。
加えて<前編>で、役職別では「部長職」がハラスメントを受けやすいという調査結果をお伝えしました。彼らも全体の傾向と同様、直属の上司、あるいはそれ以外の上位職から受けている割合が多く、それはつまり経営層がハラスメントや不快な言動を投げかけているということです。ハラスメント対策では、中間管理職層にパワハラ行為者にならないよう研修を実施することはよくありますが、その際に経営層は含んでいないというケースも多いのではないでしょうか。しかし今回の調査からは、経営層を聖域化しないことが対策の上で重要だと読み解くことができます。第一、ハラスメントを実はしている経営層に、ハラスメント防止の方針を打ち出されても、説得力がありません。
さいごに、ハラスメントに悩み、自組織での解決がなかなか難しいと感じる方には、誰でも相談ができる窓口があります。電話、メール、SNSなど手段も様々に、土日対応可な窓口もありますので、ご覧ください。
→相談窓口のご案内ページ
(厚生労働省 ハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」内 2022年6月13日時点)
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
- 配信:2022/2/8
- サンプル回収数:1,364サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳以上60歳未満
性別:男女
配信地域:全国
対象条件:正規雇用者(有業者から、自由業者およびアルバイト・パートタイム、派遣社員/社長相当者を除いている)
<設問と回答選択肢>
問:直近1年間で、職場でハラスメントを受けましたか。(単一回答)
選択肢:明確にハラスメントと感じる言動を受けた / 不快な言動はされたが、それがハラスメントと言えるかまでは分からない / ハラスメントは受けていない / 覚えていない・こたえたくない
問:直近1年間で、あなたの職場でハラスメントを受けたという話を見聞きしたことがありますか(単一回答)
選択肢:ある / 見聞きしたことはあるが、それがハラスメントとまで言えるのか分からない / ない / 覚えていない
問:直近1年以内の職場でのあなたについて伺います。以下の項目は、どの程度当てはまりますか(単一回答)
選択肢(表頭):まったくない / あまりない / たまにある / よくある
項目(表側):職場でストレスを感じること / 職場での人間関係に悩むこと / 上司に自分の悩みを相談すること / 同僚に自分の悩みを相談すること / 「もっと自分自身を尊重する気持ちになれないものだろうか」と思うこと / 「仕事が楽しい」と思うこと / 仕事に関連した成長を感じること / 今の会社で「自分が役に立っているのか」不安になること / 「転職したい」と思うこと
問:ハラスメントに関する防止・対応のサポートとして、職場に期待するものをすべて選んでください(複数回答)
選択肢:社内の人が対応するハラスメント相談・通報窓口 / 社外の人が対応するハラスメント相談・通報窓口 / 心理カウンセラーや産業医など心理・医療の専門職に相談できる機会 / 弁護士など法律の専門家に相談できる機会 / 従業員へのハラスメントに関する研修や情報の提供 / 設備の改善など物理的な環境改善 / 就業規則や労使協定の制定による社内方針の明確化や周知・啓発 / ハラスメントの実態や意識に関する調査の実施 / ハラスメント行為の厳罰化 / その他(自由記述)
<集計上の備考>
本調査レポート内で「2群間に差がある」としている結果は、t検定で有意を検出したものです。
・厚生労働省webサイト「あかるい職場応援団」各ページ(2022年6月6日アクセス)
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