カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
カオナビ Management Camp 2016 ⑦:そもそも人材抜擢ってなんだ?――「抜擢人材の成長ストーリー」後編
そんな疑問に答えるために、「カオナビ Management Camp 2016」Session1では、「抜擢人材の成長ストーリー」と題して、クラウドワークス・成田修造氏とサイバーエージェント・石田裕子氏、SHOWROOM・前田裕二氏の3氏をゲストに迎えてお話を伺いました。
前編に引き続き後編となる今回のテーマは、「力量以上の役割にどう答えたか」です。抜擢当時のことを振り返って今感じることを率直に語っていただきながら、議論は「そもそも抜擢とは何か?」という人材抜擢の本質論にまで広がりました。今をときめく抜擢人材の語る、人材抜擢とは?
株式会社クラウドワークス 取締役副社長 COO 成田修造 氏
株式会社サイバーエージェント 執行役員 石田裕子 氏
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二 氏
モデレーター
元リンクアンドモチベーション 取締役 /
株式会社JAM 代表取締役社長 水谷健彦 氏
どんどん失敗し、ダメ出しを受け、模倣する
水谷健彦氏(以下、水谷):では、2つ目の質問にいってみたいと思います。「力量以上の役割や期待にどう答えていったのか?」です。
抜擢されるということは、当然、今までの仕事よりも高い期待や広い責任を担っていくわけですよね。それに応え続けてきて、今があると思います。石田さんいかがですか?
石田裕子氏(以下、石田):私もまさにその、実力が伴っていないうちからどんどん能力以上の役割を与えてもらった認識があるので、苦しみながら今に至ります。
もしコツがあるとすれば、1つは、あえて失敗しにいくことです。どんどん失敗する。そして、自分からダメ出しを受けにいくのは、結構やっていたかもしれないですね。ダメな部分をちゃんと明確化して、ズレをなくしていくことを意識することを、最初のうちはやっていたと思います。
株式会社サイバーエージェント 執行役員 石田裕子 氏
もう1つは、「模倣」ですよね。ありがたいことに、とても優秀な先輩方がたくさん周りにいたので、私が昇格をさせてもらって上にあがっても、「この人のこういうところがうまいな」と思うところを勝手に研究して、自分なりにカスタマイズしていくことは、意識的にはやっていましたね。この2点だと思います。
「とにかく一番重要なことは、人に好かれることだ」
水谷:失敗をしにいく、模倣する。何か、前田さんありそうですね。
前田裕二氏(以下、前田):そうですね。まさに僕もそうやっていました。それ以外の論点なら、最初に、自分のボスから「とにかく一番重要なことは、人に好かれることだ」と言われて。
自分は前職がUBSという証券会社だったのですが、その証券会社に入る前、大学4年生のときにインターンのお仕事、例えば資料の印刷や顧客向けのセミナーの案内などをやっていました。
僕としては早くプロフェッショナルになりたかったので、コピーとか誰にでもできそうな仕事ではなくて、「もっと株のことを教えてください」とか言っていたんです。そうすると、「今一番やるべきことを教えようか。あそこにアシスタントの女性たちがいるでしょ? あの人たちと毎日ランチに行け」と言われたんです。「それが一番重要だから」と。
肩透かしというか、「もっとないんですか?」な感じでした。株価の予想の仕方や、もっと精緻なエクセルのシミュレーションモデルの作り方を勉強して、「プロフェッショナルとして1日でも早く活躍したいんだ」という話もしたんですけど、「学生のうちから学べる株の知識なんてたいしてワークしないから、とにかく好かれろ」と言われました。
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二 氏
最初は正直意味がわからなかったんですけど、だんだん仲良くなっていったら、入社後にからくりがわかりました。そのアシスタントの女性たちは、好きな営業マンに、ちょっとだけえこひいきをするんですよね(笑)。それがいいか悪いかは別にしてですよ。でもそれは、当時のその組織のルールだったんでしょう。
アシスタントの仕事は、例えば、企業と投資家を結びつけるミーティングを設定する際の、企業側とのやりとりです。すごく具体的ですが、そのミーティングのスロットが企業から出てきたときに、まず最初に案内する営業マンがいたりします。よーく観察していると、それが、彼女たちが感情的に好きな営業マンだったりするんですね。それを、僕のボスはわかっていたんだと思います。
「君がもし『上司に勝ちたい、自分の力量以上に勝ちたい』と思うのであれば、君の持っているスキルを上司に近づけることじゃなくて、とにかく自分の1の能力を、周りの人をうまく使って10や100にしていくことだ」ということを言いたかったんだと、後々解釈したんです。最初は、全然意味がわからなかったんですけどね。
僕の中で常々、仕事をすればするほど、「自分だけの力では世に果たすインパクトの大きさに限界がある」と感じていました。だから今はこうやって、チームとしてインパクトを出していくのはすごく楽しい。自分の1という力をかけ算で周りと広げていくことを、いつも意識しています。
そのためには、「とにかくこの人のためになにかしてあげたい」と思われること、仲間を増やしていくことが、僕は極めて重要だと思っています。そのためには、やはり好かれること。さっきの鏡の話じゃないですけど、僕がまず好きになる。
いまだにそのアシスタントの女性の方々とは飲みに行ったりするんです。まったく仕事と関係ないですけど。それはやはり好きの連鎖が生む良き関係性を築けていた証拠なのかなと思います。
もちろんそれはハード面と両輪じゃないといけない。それこそ投資家のミーティングで、ハード面やスキル面が求められる状況におかれたとき、なにもバリューが発揮できなかったら、それは評価されません。すなわち、たゆまぬ努力は絶対必要という前提があります。
毎日毎日、自分が変化できているか
水谷:なるほどですね。成田さんどうです?
成田修造氏(以下、成田):石田さんの言ったことも前田さんの言ったことにも近いのですが、私の場合は変化です。毎日毎日、自分が変化できているか。
自分の考え方が変わっているかどうか。ミーティングの仕方や、ものごとの考え方1つとっても、すべてが少しでも変わっているか。その、ちょっとの変化が自分のなかにあるかをものすごく意識しています。
株式会社クラウドワークス 取締役副社長 COO 成田修造 氏
その変化を起こす触媒として、「模倣」がある。情報をとにかく集めて、自分たちで消化させて、ちょっとずつ変化させながら良くしていくことを意識しています。
信頼関係を構築するときに、うちの今のキーワードに「心理的安全」があります。要は、お互いが言いたいことを言い合える関係になっているかどうかは、心理的安全という言葉で表現できると思っています。
だから、うちはあえてミーティングのときも(口で)言わせない。言うと、みんな言いにくくなるので、書かせるんですね。全員に言いたいことをまず書かせて、言える化をした上で、「じゃあ話そう」と心理的ハードルを下げる。「あ、言っていいんだ」となり、「それよくないです」と言ってくれるような関係を築く。そんな仕組みを作っているという感じです。
成田:その信頼残高がどんどん貯まっていくと、言いたいことを適度に言ってくれる関係性になる。それは、意識して作っています。
そうやって自分に情報が入れば、その人たちの求めている水準を超えられる可能性が高まる。そうすると、自分の力量がどんどん上がっていく。
自分に一番情報が集まるようにすれば、絶対に信頼されるようになっていくんですよね。そうやって変化できれば、自分自身も組織も成長するので、「いいね」とみんなが思ってくれる。そういう仕掛けをするという感じです。
失敗経験こそが価値
水谷:石田さんにももう少し聞いてみたいんですけど。冒頭に、失敗をたくさんしにいくという話と、あと模倣ですよね。それでなにか自分自身の成長に思い出深いエピソード、具体的な話はありますか?
元リンクアンドモチベーション 取締役/株式会社JAM 代表取締役社長 水谷健彦 氏
石田:失敗という観点で申し上げると、サイバーエージェントの中でランキング化するのであれば、かなり上位に食い込んでくるんじゃないかと思っているんです(笑)。
(最近の失敗では)1つは、スマートフォン特化型のオークションサービスを手がけていた時です。そのときも「スマホシフトしよう」と会社が思いっきり舵を切ったときに、もう100くらいサービスを立ち上げるフェーズがあったんです。そのときの1つのサービスを事業化して、子会社化したんです。
レッドオーシャンに武器を持たずに飛び込んでいくようなもので。例えば、「ヤフオク!に勝ってくれ、そこだけだ」という感じだったんですよね。なので、無謀だったんです。そういう失敗もあります。
あとは、ウーマンクラウドという会社を今年やっていたのですが、これは市場自体がまだまだでした。そこで会社として「そこに張るよりも違うところに」という経営判断が下りました。撤退して、「みんなそれぞれ散らばって、もう一度新しいミッションの下でがんばっていく」という決断をしたんです。
水谷:失敗を続けていくことで、「自分の能力がこう変わっていった」「こんなことがわかるようになっていった」ということも聞けるとうれしいです。
石田:失敗をしたことで、「どういう背景の下にそういうふうに舵を切ったのか」「どういう戦略を立てるのが正解だったのか」と、振り返ることで出てくる反省点があるんですよね。
石田:失敗の経験を下に得た学びを次に活かしていく。失敗経験こそが価値なんだぞという考え方が、サイバーエージェントのなかには、ありがたいことにありました。
「失敗した者にはセカンドチャンスを」が、文化としても体現されている。学びから得て、どんどんまた次のチャレンジにいってくれというような文化なんですね。
水谷:怖くなった瞬間はないんですか?
石田:いっぱいあります(笑)。でも、あえて鈍感になる。すると「こうすればよかった」が出てくるんですよね。それこそが宝だと思っています。そして、ちゃんと認識して次に活かす。会社や組織に対して貢献することを忘れずに、ずっとやっている感じですね。
「抜擢の先を見ている人」を抜擢したい
水谷:では最後の質問いってみましょうか。これは前田さんにうかがおうと思うんです。「仮に昔の自分が今のSHOWROOM社に入社してきたとしたら、経営者としての自分は自分を抜擢しますか?」という質問ですね。
前田:お〜、なるほど。これはもう圧倒的に抜擢しますね。
水谷:圧倒的に抜擢する?(笑)。「その心は?」ということで、もうちょっとくわしく……。
前田:そうですよね(笑)。
(一同笑)
そもそも、抜擢を目的と捉えるか、手段と捉えるか、という話です。「たぶん抜擢されたいと思っていないだろうな。こいつは」、もしくは「会社を使い倒して自分の野心を叶えようとしてるだろうな」と思うからですね。
もしかすると大成功したいかもしれないし、「世のなかに対してこういうインパクトを与えたい」と大きなスケールでやりたいと思っているのかもしれない。
例えば「役員になりたい」などは、僕は大事なモチベーションだと思うんです。SHOWROOM社に若かりしころの僕が入ってきたら、「この会社が持っているアセットを使い倒して、こういう世界を作ってやる」と入ってくると思うんですよね。
「抜擢」と「出世」は一見似ていて、概念的に重なっている感じもありますが、僕のなかでは少し異なっています。「いや、抜擢とかぜんぜんいいっす」という人が、結果を残し、出世するケースを見てきました。先ほどの成田さんからも「いわゆる経営目線とか会社目線でやる人が……」という話があったと思うんですけど、僕としても、単に目先の抜擢を追いかけている人ではなく、もっと高い視座を持った人、つまり、「抜擢の先を見ている人」を抜擢したいですね。例えば、「自分が社会に与える影響を上げたい」「自分の夢を叶えられる確率を上げたい」といった、野心があったり、ギラついている人です。
水谷:成田さんはどうです?
成田:自分も、今のクラウドワークスにその当時の自分が入ってきたら、抜擢すると思います。その理由は端的にいうと、抜擢しないと辞めるからです。
自分は、大学2年生のとき、2年間正社員として働いていました。そのときに辞めた理由は、まさに抜擢されてなかったからでした。その会社で1人の社員としてやっていることがおもしろくなくなってしまって。「自分で独立したほうがいいじゃん」と言って、独立したんです。
ただ、その独立がうまくいかなかったんです。起業して失敗したんですけど、そこで学んで「また勉強しよう」と思って就職活動したりしました。その過程のなかでクラウドワークスに出会って、経営に関わることになったんです。そういう経験の積み重ねだと思うので。
少なくとも自分はそういう経験と思いをしていて。だから「こういうことを実現したい」「これくらいの会社を作りたい」という思いがある人には、そういう場を提供しないとどんどん離れてしまう。
インターネットでは少なくとも、サイバーエージェントなのか、クラウドワークスなのか、DeNAなのかというのは誤差です。そこにいる人の多くは、どこに入ってもいいという人がほとんどではないかと思うんです。
そのなかで、企業としての競争力はなにかというと、人材に対してどれだけ成長機会を提供できるか、失敗を許容できるか、大きなチャレンジができるか。その土壌しかないと思っています。会社経営の1つとして、抜擢すること自体が目的化してもいいくらい、自分は重要だと考えているんですね。
水谷:だから、迷わず抜擢するんですね。
成田:今もしたいです! 優秀な人がいればもう会社を任せたい。それくらいの感じですね。
「引き上げ型の抜擢」VS「肩書きを追いつかせる抜擢」
水谷:最後に、「抜擢されるためにはこういう気持ちが大事」「こういう姿勢で臨むべきだ」を、まとめとして話していきたいと思うんです。石田さんからいってみましょうか。
石田:先ほどの質問に若干かぶってしまうんですが、もし自分のようなタイプがいたら、上司だったら抜擢していないと思うんですよ。というのは、前田さんの言葉を借りると、ぜんぜんギラついてなかったので。
成田:今日もギラついていない(笑)。
石田:今もギラついてないんですけど(笑)。
例えば「活躍したい」「抜擢してほしい」と思っていなくても、有無を言わさずそういうポジションを与えていただいて、やってみておもしろさに気付いたところがあります。
「こういう仕事もあるんだ。自分がイメージしていた世界とは違うな」「もし自分が経営者だったらこうするんじゃないか?」という視点がどんどん上がっていったのがおもしろかったんですよね。
ギラついていない人でも、役割を与えれば、人はそれなりに成長していく。もちろん、ついてこれない人もいるので、賭けみたいなところはあるかもしれません。ですが、とにかく与えていく。与えないと始まらないと思っていますね。
私みたいなタイプもいて、結果的に上へあがったことで、自分の存在意義や役割みたいなものを感じて「もっと貢献したい」と思える人材もいる。
成田:僕の場合、どちらかというと、人間の器のほうが大事かなと思っています。その人が人間として信頼に足り得るのか、その人が事業を任せたときに逃げない器なのか。そういう根本的な人間としての懐や深さがある人であれば、抜擢されやすくはなるんだろうと思うんですね。
石田さんは、それを上司が見て「いけるんじゃなかろうか」という仮説の下に、そのままうまくいったんだと思うんです。それで失敗するケースもあるわけですが、ベースとしてなくちゃいけないのは、懐と深さと人間的な器です。そこにスキルが乗ります。
前田:抜擢には、大きく分けて2種類あると思っています。いわゆる肩書きやステータスには足りないんだけれども、パッケージや表向きの肩書きみたいなものを引き上げることによって、内面も本当にそちらへ追いつくという「引き上げ型の抜擢」。
そもそも、その人が結果を出しまくっていて、実態が肩書きを越えてしまっている「逆に後々から肩書きを追いつかせる抜擢」があると思うんです。そのどちらを狙うかによって、僕は違うと思っています。
前者だと、自分の持っているポテンシャルをちゃんと理解してもらうことが重要です。後者であれば、有無を言わさず結果を出していれば勝手に上がっていくと思うんですよね。
僕がギラつきを重要視しているのは、後者のパターンです。つまり、「こいつを抜擢しないと辞めちゃう」という、先ほどの成田さんの話と同じですね。
僕は圧倒的にそこで事業を成長させる自信があったので、「これは抜擢しないとこの社員をなかに入れておけない」という発想の下、抜擢していると思うんですよね。
一番大切なのは「人格」
成田:むしろ抜擢するときも、「この人は営業成績すごいいいです」「この人はスペシャリティすごい高いです」といっても、逆に人間性が「ちょっとリスクあるな」というケースがあるじゃないですか? なんか、ざわつくなにかがあるというか。
そういうときはダメです。むしろ上がれないルールにしています。それをちゃんと経営層のなかで一致させられるか。これも重要な要素ですね。
水谷:いわゆる人格みたいなものですよね。
成田:そうです。それがものすごい重要な要素だろうということですよね。
水谷:サイバーエージェントさんも、管理職への登用なんかは「人格がまず最初」みたいな感じでおっしゃっていますもんね。
石田:そうなんです。人格と実績なんですが、どちらかといわれたら人格を重視する基準はありますね。
成田:周囲のできる人材を束ねられるだけの人格があるんだったら、なんとかなると思うんですよね。
前田:最近、エントリーマネジメントの重要性というところをすごく感じていて。人格は捻じ曲げられないから、「一に採用、二に採用、三四がなくて、五に異動」と聞いたんですけど、本当にそう感じています。
能力面は、自分の持っているものをコピーさせてあげれば、かなり引き上げられる部分あるんです。でも「人間的に大丈夫か?」という観点は、もうその人の生まれ持った人格なので、僕らがなにかして変えられる余地は大きくない。
成田:スキルと相対的に比較してみると、人格はかなり変えにくいものですね。
前田:ですよね。別にまったく変えられないわけじゃないし、人間関係を築くことで変わるのはあると思うんですけど。
入り口の時点で、そもそもの「人格スクリーニング」のほうが、スキルのスクリーニングよりもよっぽど重要なんだろうなと感じて、最近は採用活動にあたっています。
水谷:みなさんが抜擢する立場でも、「人格面はすごく見ます」ということが面白かったと思いますね。抜擢というと、やはり業績や結果に意識がいきそうですけど、それはかけ算なんだと思いますね。
本当はもうちょっと話を続けたいですけれども、いったん時間になりましたので、今日はこれで終了にしたいと思います。どうもありがとうございました。
成田・前田・石田:ありがとうございました。
(会場拍手)
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