カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
Slackがリードするビジネスチャットツール、HRテックをどう変える?
ビジネスチャットツールが流行る世相
日本でも大きく市場を伸ばしているビジネスチャットツール、Slack、chatwork、Google Hungouts、Microsoft Teamsなどを始め、数多くのサービスが利用されています。ここ数年での拡大の要因は何でしょうか。
まず、どこにいても常にネットワークで繋がれて、何をするにもスピーディに完結でき、更にそのスピードが加速化している現代の社会環境があります。数十年前に広く浸透したメールでのコミュニケーションも、今ではタイムラグが気になります。SNSの登場で、ほぼリアルタイムで何らかの反応を得ることに慣れている世代では、メールすら読むことがない程にまでなっています。このような環境で、ストレスなく気軽にコミュニケーションがとれるビジネスチャットツールが職場に持ち込まれ、企業でのスムーズなコラボレーションを促進するようになるのは必然と言えます。
また日本では、働き方改革がこの流れを後押ししています。長時間労働に代表される、生産性の低さを改善する一つの可能性として期待を寄せられています。ビジネスチャットツールを活用することで、どこからでも従業員のそれぞれが必要な情報を必要なタイミングで素早く入手・共有でき、対面での調整や会議時間の短縮といった、ちょっとした業務効率改善を実現できるというものです。
以下、グローバルに職場で広く浸透しているSlackに焦点をあてて、4月に米サンフランシスコで開催されたSlack Frontiers 2019で見聞した情報を交えながら、具体的なソリューションや活用方法をご紹介します。
Slackの特長
Slack Technologies社
サービス開始から約5年でアクティブユーザが1,000万人を超え、150か国を超える地域の85,000社で利用されているツールを提供しているのはSlack Technologies社です。Slackによる現代の職場環境が抱えるフラストレーションを取り除くユーザ環境を通して、快適で有意義な働き方の実現を目指しています。
年次で開催しているFrontiersというイベントでは、顧客やパートナーに社の方向性やツールの活用方法などを発信すると同時に、様々な提携サービスを紹介しています。今回は本社オフィスを訪問する機会がありました。そこでは自社の職場環境を快適に保ち、プロダクトに対するコンセプトを体現しようとする姿勢が見られました。実際、オフィスを快適に創り上げ、維持する専門チームを持ち、随所にそのこだわりを散りばめています。サンフランシスコ本社オフィスでは、自然光を模したライティング、目的別にデザインされた様々なスペース、ストレスを低減する丸味を帯びた角といった造作から、高さ可動なデスクなどの備品に至るまで、従業員が業務でパフォーマンスを出せるよう考えられたスペースが用意されています。また、職場には、スペースだけでなくツールや文化も影響を与えるとの理解のもと、社内でのSlackの使い方やルールなども工夫されています。
Slackとその活用事例
ここで、ツールとしてのSlackを簡単に説明すると、関連するメンバーの間で関連のある情報を一元管理し、コラボレーションを支援するというものです。Lineの様な使用感をイメージして頂くと分かり易いかもしれません。ワークスペースと呼ばれるコミュニケーションの場に、個人向けのメッセージ機能があります。加えて目的毎に関係者を集めたチャンネルを設け、そこでメンバーがメッセージやデータを集約、共有された情報を元に業務を共同で進めていきます。アカウントさえあればデバイスを問わず、ファイルのシェアや検索、特定のメッセージに派生するスレッドの展開、絵文字での反応などが簡単にできるので、スピーディなやりとりが可能です。途中から関連を持つようになったメンバーも、該当のチャンネルに参加すれば、始まりや経緯を追えます。関連がなくなった場合はチャンネルから退出するだけです。チャンネルは必要に応じて追加や削除が行われます。チャンネルには、特定のメンバーにしか開かれていないプライベートと、誰でも参画できるパブリックの両タイプがあり、アクセスを制御できます。
FrontiersのセッションでSlack Technologies社における活用例がいくつか紹介されました。例えば採用のシーンでは、すべての募集ポストに対して下記のように複数チャンネルを使い分けているそうです。
- 採用チャンネル: 採用チームと担当マネージャで今回の募集ポストにふさわしいスキル、経験年数、ターゲット企業などをディスカッションし、新規採用候補のスペックを明確にしていきます
- 面接チャンネル: 採用チーム、担当マネージャ、面接官たちが、今回の候補者に対して確かめたい内容は何かを共有します。面接で投げかけるべき質問事項などについて事前に準備しておき、面接後には各々のフィードバックを確認し合います
- オファーチャンネル: 採用が決まったら、連携された承認プロセスを支援するツールを使いながら、ものの数分でオファーパッケージを迅速に決定し、候補者にスピーディに提示できるよう整えます。場合によっては候補者に良い印象を与え、オファーの承諾にもつながります
上記のような、目的別のタスクを役割で集まったチーム単位で遂行し、それらをスムーズにつなげていくことで、業務の効率やスピードを向上することができます。誰でもタスクの内容や経緯を把握しやすいため、メンバーに変更があっても引き継いだ人がキャッチアップしやすく、担当者の休暇などに際しても柔軟に対応することができるとのことです。
また、採用後にも、同時期に採用された新規採用者たちを集めたチャンネルを用意しています。そこで彼らは仲間意識を育みながら社内のリソース、ナレッジを共有し合ったり、同時にオフラインでの研修などと並行してSlackの使い方を互いに実践しながら学ぶ場にもなっていると言います。他に、マネージャたちが新規採用者について面白クイズを交えながら紹介するチャンネルなどもあり、社の文化でもあるオープンなコミュニ―ケーションを通して、新規採用者が会社に受け入れられている気持ちになれる手助けとなっているそうです。(Slack Frontiers 2019 のセッションより)
Slackはこのように、コラボレーションを支援して共同業務の効率を改善しますが、特筆すべきは他社のサービスとの連携です。多くの企業では複数のシステムを併用して業務を遂行しています。それら業務に不可欠なソフトをSlackに繋げる取組に早くから着手しており、現在では1,000を超えるアプリや連携ツールが登場しています。連携によって、ユーザはSlackから離れることなく様々な業務を行えるようになり、複数のシステムを使い分ける煩雑性の減少、コラボレーションの促進に伴いさらなる業務の効率化が見込まれます。連携ツールが増えるほど上がる利便性が、Slackが単なるチャットツールの枠組みを超えて多くのユーザ企業に支持される大きな要因となっています。次章ではFrontiersで展示のあった連携ソリューションの中から、HRテックに関わりのある事例をピックアップします。
HRテックとSlackの連携事例
Slack Frontiers 2019のエキスポに出展していた、HRテック関連のソリューションを二つご紹介します。
人材管理(HCM)システムとの連携
いわゆる大手ベンダーが提供している、オールインワン型の人材管理システムで行う人事関連の簡易な処理をSlack上で行うものです。従業員一覧から特定の従業員の詳細情報を閲覧したり、給与の参照、有給および福利厚生のチェックや申請・承認処理、フィードバックといった簡単な業務を行えます。
対象の業務のためにわざわざ人材管理システムにログインする必要がないため、煩わしさの軽減と業務時間のちょっとした短縮になります。
パフォーマンスマネジメントツール、Latticeとの連携
Lattice(米国)は従業員エンゲージメントに着目したパフォーマンスマネジメントツールで、目標設定や評価、1オン1やフィードバックなどを支援するとともに、サーベイと分析といった機能を提供しています。
Slackとはレコグニション(承認もしくは賞賛)とフィードバックを中心に連携しています。従業員は、日々のコミュニケーションのなかで、随時フィードバックを送り合い、レコグニションを受け取ることができます。マネージャや同僚からタイムリーにフィードバックを受けることで、自身の良いところや改善ポイントを即時に行動レベルで理解できることが利点です。
また、レコグニションは(Lattice上で投稿されたものも自動的に)Slackの全社向けパブリックチャンネルで全従業員に共有され、日々、自分の仕事が周囲から承認されていると従業員が感じることができます。レコグニションを共有する際、会社のバリューと紐づけてポストすることで、会社の価値観や文化の理解、浸透を自然に促す効果もあります。
Slack上では日々のコミュニケーションと親和性の高い部分を連動させると同時に、Lattice側にも溜められたこれらの履歴を違った文脈で利用できる様になっています。マネージャが後にLattice上で参照し、1オン1のインプットとして活用することや、人事部による組織全体像の把握などにも役立ちます。
このように、企業活動における日々のコミュニケーションを起点として様々な業務を繋げることによって、業務効率をあげるアプローチは今後も進んでいくと思われます。HRテックも例外ではありません。ただ、この連携に適した業務や適切な連携レベルを見究める必要があります。Slackが従業員体験を向上させる快適な職場の実現を掲げ、自らその体現に努めていることから、ユーザがストレスなく利用しやすいサービスデザインが期待されます。
Lattice社 Webサイト
Ultimate Software社 Webサイト
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