カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
定期異動・異動希望の聴取制度の実際は? ~異動とキャリア選択の実態調査①~
サーベイの背景
4月や7月に人事異動があったという方もいらっしゃるかもしれません。どこの部署に、あるいはどこのポジションに配属されるのかで、一喜一憂したという方もいらっしゃるのではないでしょうか。近年は、新入社員がどの部署に配属されるかわからない不安な心境を、カプセルトイの「ガチャガチャ」やソーシャルゲームの「ガチャ」になぞらえた「配属ガチャ」という言葉もネットで話題になりました。いつでも自分の希望通りという訳にはいかない「異動」は疎まれることも多いですし、近年は欧米企業のように基本的には異動がない(少なくとも異動に同意が必要な)働き方を望む声も多く、耳にするようになりました。
しかしながら、人事異動はいつ何時でも“嫌われ者”なのでしょうか?現在の部署・ポジションに何か不満がある場合は、変えるチャンスだと捉えられることもあるでしょうし、人事異動が嫌というよりは、勝手に決まってしまうことが嫌だなどもあるかもしれません。少し解像度を上げて捉えてみたいところです。
この「異動とキャリア選択の実態調査」は、異動やキャリア選択に関して働く人視点で捉えようとした調査になります。全3回を予定しており、今回の①では、定期異動制度と自己申告・社内公募制度を含む「異動の希望を聴取する制度」の状況について概観していきたいと思います。
サーベイの概要
今回は以下の要領にてインターネットを用いたサーベイを実施致しました
- サーベイ対象:20歳以上60歳未満の有業者1,000名(「自由業」、「アルバイト・パートタイム、派遣社員」あるいは「社長相当」、「現在の勤務先での勤続1年未満」を除いている)
- サーベイ期間:2022年12月22日(木)~2022年12月26日(月)
- サーベイ内容:Web上で異動・キャリアについての質問項目に、選択・記述式で回答
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)
調査結果① 自分の組織に「定期異動がある」という回答は33.6%で、その33.6%のうち約6割は「従業員の同意不要」で異動が決定される
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Q.現在働いている組織で、「定期異動(定期的かつ一斉に人材を異動させる)」はありますか?また定期異動がある場合に、異動の決定には従業員の同意が必要ですか?(以降の図も同様)
「定期異動あり」と回答した方は全体の33.6%、「定期異動なし」と回答した方は53.8%と過半数を超えています。「定期異動あり」の回答者の33.6%は、定期異動の決定の際に「原則その異動対象者の従業員の同意が必要である」と回答した13.2%と、「そのような同意は不要である」と回答した20.4%で構成されています。定期異動ありの回答者に絞ると、要同意は4割、同意不要は6割程度となり、主流なのは同意が不要な在り方のようです。また「定期異動の有無が分からない」という方も12.6%存在しています。
調査結果② 企業規模別で「定期異動あり」が最多なのは、従業員数「3,000~4,999人」の企業で71.9%
調査結果③ 従業員数1,000人以上の企業では、定期異動の同意不要率が高い
企業規模別でも、定期異動の有無と同意の要不要を見ていきます。
「定期異動あり」と回答した割合が一番大きいのが従業員数「3,000~4,999人」で71.9%となりました。図2からわかるように、5,000人以上を除けば、従業員規模が大きくなるにつれて「定期異動あり」と回答している割合が高くなっています。また、従業員数が多い「5,000人以上」「3,000~4,999人」「1,000~2,999人」の企業に所属している回答者の回答は、比較的「同意不要」の割合が高く、定期異動があると回答した人のうち6割を超えてきます。やはり異動対象の人数が多いと、同意を一人ひとりに取るのは難しいと考えるのかもしれません。ただどの企業規模においても、「同意不要」の回答が「定期異動あり」の回答の過半数を占めています。
次は、業種別でもみていきましょう。
調査結果④ 業種別で「定期異動あり」が多いのは「公共サービス」「金融」で、同意が不要な割合も高い。一方で「メーカー」は要同意の割合が高い
図3は「定期異動あり」の回答の合計の降順で作成しています。業種別において「定期異動あり」の回答が多かったのは、「公共サービス」「金融」で、その割合は半数以上にのぼります。公共サービスや金融は、不正・癒着防止という意味合いの異動も他業種に比べると多いかと思うので、自然な結果ではあるでしょう。またこの2業種は、同意不要率も高い結果となりました。一方で「定期異動あり」が30.7%の「メーカー」ですが、定期異動ありの回答者の中での要同意率が他の業種と比較して高いことも分かります。
さて、仮に異動の際に同意が不要だったとしても、異動先を決定する際に希望を考慮してくれれば「むしろ良い」とうこともあり得ますよね。勤務先の異動希望聴取制度の有無と、その制度によって希望が反映されている実感があるかを聞いています。
調査結果⑤ 「異動の希望を聴取する制度がある」は回答者の51.7%と過半数を超え、その51.7%のうち「希望が反映されている実感がある」と回答した人は4割強
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Q. 現在働いている組織で、異動についての希望を聞くような制度はありますか?またそのような制度がある場合に、どの程度希望が考慮されていると感じますか?(以降の図も同様)
「異動の希望を聴取する制度がある」と回答した方は全体の51.7%、「聴取制度なし」と回答した方は26.9%、「聴取制度の有無不明」は21.4%存在していることが分かりました。
異動希望聴取制度があると回答した回答者の51.7%は、「希望の反映実感あり」の22.9%、「希望の反映実感なし」の13.7%、「(異動の経験がない等で)希望の反映実感の有無が分からない」の15.1%の合計で構成されます。反映実感ありの22.9%は、「聴取制度がある」と回答したうちの約4割程度にあたり、決して少ない訳ではありません。とはいえ、「反映実感なし」という回答者もおり、形式上での聴取になっているような企業もあることを示唆しています。考慮する人の数が多いほど、希望反映の難易度は上がりそうな印象もありますが、従業員数の大小で反映実感がどのように異なるか、見ていきましょう。
調査結果⑥ 従業員数が多いほど希望聴取制度を設けている割合が高い
調査結果⑦ 制度がある場合の希望の反映実感は、従業員数「500~999人」「1,000~2,999人」の企業で低くなる
従業員数が多くなるにつれて、希望聴取制度を設けている割合が高くなっていることが分かります。制度がある場合の希望の反映実感は想像とは異なり、従業員数「500~900人」「1,000~2,999人」の企業で相対的に低いという結果となりました。中堅規模の企業の回答者に、希望の反映実感がないというのは興味深い結果です。小規模な企業であれば小回りが利いて希望をくまなく反映することができるのは想像がつきますが、逆に企業規模が大きくなると、機械的なマッチングがある程度必要となりそうです。その方法が中堅企業よりも、3,000人以上の規模になってくると、洗練されているのかもしれません。
業種別でも、希望聴取制度と希望反映実感の有無を見ていきましょう。
調査結果⑧ 定期異動と同様に、希望聴取制度がある割合が高い業種は「公共サービス」「金融」
調査結果⑨ 希望聴取制度がある割合が高い業種群の中で、「教育」は「希望反映実感あり」の割合が高い
図6は「希望聴取制度がある」という回答の割合の合計の降順で作成しています。調査結果④と同様に、希望聴取制度がある割合が高い業種は「公共サービス」「金融」となりました。また、希望聴取制度がある割合が比較的高い業種の中でも「教育」は、「希望反映実感有り」が38.5%と高い傾向です。教育業種については、例えば公立の学校教員であれば、基本的に数年に1度、異動はあるものです。毎年多くの人が異動対象となるため、マッチングがしやすいというのもあるかもしれません。あるいは、教員の場合、教員という職種を変えるような異動というのはごく少数しかないと思われるため、異動の希望は勤務地などの条件に集中することとなり、複雑なパズルになり得ないといったことも、あり得るかもしれません。
さて本記事の最後に、現在の組織で実際に異動を経験した人がどれだけいるかを示します。
調査結果⑩ 「現在の組織で異動経験がある」のは回答者の45.4%で、その45.4%のうち「本部・事業部をまたいだ異動経験がある」のが約6割
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Q.現在働いている組織で、異動の経験はありますか?また経験がある場合、どのような異動でしたか?
「現在の組織で異動経験がある」と回答した方の全体に占める割合を見ていきます。現組織では、45.4%の方が異動経験あり、54.3%の方が異動経験なしと回答しています。全体の中で「本部・事業部をまたいだ異動経験がある」の割合は26.8%ですが、これは異動経験がある人の中では約6割を占めていることになります。裏を返せば、「異動は経験したことがあるが、事業部・本部をまたぐ異動をしたことはない」のは、異動経験がある人のうち約4割です(全体に占める割合は18.6%)。本部や事業部をまたぐ異動となると、扱う商材・サービスなどがガラリと変わることも想定されますが、異動経験がある人の中ではむしろ多数派なことも興味深い結果です。
調査結果のまとめ
今回明らかになった結果は、以下の通りです。
- 調査結果① 自分の組織に「定期異動がある」という回答は33.6%で、その33.6%のうち約6割は「従業員の同意不要」で異動が決定される
- 調査結果② 企業規模別で「定期異動あり」が最多なのは、従業員数「3,000~4,999人」の企業で71.9%
- 調査結果③ 従業員数1,000人以上の企業では、定期異動の同意不要率が高い
- 調査結果④ 業種別で「定期異動あり」が多いのは「公共サービス」「金融」で、同意が不要な割合も高い。一方で「メーカー」は要同意の割合が高い
- 調査結果⑤ 「異動の希望を聴取する制度がある」は回答者の51.7%と過半数を超え、その51.7%のうち「希望が反映されている実感がある」と回答した人は4割強
- 調査結果⑥ 従業員数が多いほど希望聴取制度を設けている割合が高い
- 調査結果⑦ 制度がある場合の希望の反映実感は、従業員数「500~999人」「1,000~2,999人」の企業で低くなる
- 調査結果⑧ 定期異動と同様に、希望聴取制度がある割合が高い業種は「公共サービス」「金融」
- 調査結果⑨ 希望聴取制度がある割合が高い業種群の中で、「教育」は「希望反映実感あり」の割合が高い
- 調査結果⑩ 「現在の組織で異動経験がある」のは回答者の45.4%で、その45.4%のうち「本部・事業部をまたいだ異動経験がある」のが約6割
「現在の組織において異動経験がある」という回答者は半数弱、また「異動の希望を聴取する制度がある」という回答者も約半数いることから、異動というイベントは多くの人にとって身近なものであることが分かります。特に従業員数が多い組織や、公共サービス、金融といった業種の組織では、定期異動の制度があることも多く、同様に異動希望聴取の制度も整備されている割合が高いことも分かりました。しかしながら、公共サービスや金融の業種は異動希望の反映実感がないとする人も多く、制度があっても運用の如何によって働く人の実感が変わるようです。希望反映については、考慮対象の人数が多い方がマッチングは難しそうに思えますが、実際には中堅規模の企業の方が反映実感は低く、従業員数が一定以上の企業の方が反映実感はあるようです。大企業では従業員について直接の把握が難しい代わりに、タレントマネジメントシステムで人材情報を管理しているケースが多いと思われ、そういった情報活用やマッチングの手法が洗練されている可能性が伺えました。
今回は異動に関する制度や異動経験について概観しましたが、次回はもう少し深掘りし、異動についてどのような印象を働く人が抱いているのかを探っていきます。
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
- 配信:2022/12/22
- サンプル回収数:1,000サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳以上60歳未満
性別:男女(均等割付)
配信地域:全国
その他条件:「自由業」、「アルバイト・パートタイム、派遣社員」あるいは「社長相当」、「現在の勤務先での勤続1年未満」を除いている
<設問と回答選択肢(今回調査)>
問:現在働いている組織で、「定期異動(定期的かつ一斉に人材を異動させる)」はありますか?また定期異動がある場合に、異動の決定には従業員の同意が必要ですか?
選択肢:定期異動があり、原則異動する従業員の同意が必要/定期異動があり、原則異動する従業員の同意は不要/定期異動はない/分からない
問:現在働いている組織で、異動についての希望を聞くような制度はありますか?またそのような制度がある場合に、どの程度希望が考慮されていると感じますか?
選択肢:異動についての希望を聞く制度があり、希望が反映されることもある/異動についての希望を聞く制度があるが、希望がほとんど反映されていない/異動についての希望を聞く制度があるが、自分は利用したことがないため、希望がどの程度反映されるか分からない/異動について希望を聞く制度はない/異動について希望を聞く制度の有無は分からない
問:現在働いている組織で、異動の経験はありますか?また経験がある場合、どのような異動でしたか?
選択肢:異動は経験したことがあるが、事業部・本部をまたぐ異動をしたことはない/事業部・本部をまたぐ異動をしたことがある/異動は経験していない/その他(自由記述)
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