カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT

2021.02.01
調査

リモートワーク下で雑談を生む「仮想オフィス」という選択肢

テレワーク、在宅勤務、リモートワーク等の「出社をしない」働き方(以降、すべての働き方を含めて「リモートワーク」とします)は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、感染症対策の文脈でまずは注目されました。2020年4~5月の全国的な緊急事態宣言のもと、リモートワークは浸透し、実際に経験した方も多くいらっしゃるかと思います。以前から“多様で柔軟な働き方の実現”という社会的な要請から注目されてきたこともあり、一部の導入企業では定着しそうな兆しも見受けられます。しかし様々なメリットがあるとされながらも、「リモートワークによって、コミュニケーションがとりづらくなる」という不安や不満の声が、常につきまとっているのではないでしょうか。

実際のところ、リモートワーク下のコミュニケーションはどうなのか?

カオナビHRテクノロジー総研が2020年8月に実施した、リモートワーク中の300名へのインターネットアンケート調査では「リモートワークで、社内における対面コミュニケーションが減少したことは、ご自身にとって良いことですか。悪いことですか」という質問に対し、4割の人が「悪い」と回答しました。

  • Q. リモートワークで、社内における対面コミュニケーションが減少したことは、ご自身にとって良いことですか。悪いことですか。

 
また同調査で「社内の対面コミュニケーションが減少したことで、うまくできずに困っていること」を「(リモートワークによって)社内の対面コミュニケーションが減少した」と回答した292名に聞いたところ、トップ2は「何気ない会話でリラックスをすること」「他部署や他チームの動向や、周りの人の仕事の状況を自分が知ること」となりました。

リモートワークは「観察」がしづらい

「他部署や他チームの動向や、周りの人の仕事の状況を自分が知ることが難しい」というのは、つまり「周囲の観察が、リモートワークでは困難である」と言い換えられます。オフィスに多くの人がいた際には、周囲の観察によって獲得できていた情報量を、リモートワークでは獲得できません。
さらには、オフィスでは自然に目にしたり耳にしたりした情報が、コミュニケーションのきっかけになっていたはずです。しかしながらリモートワーク下では、そのような「偶然取得できる情報量」が減少します。オフィスにいるときは「話しかけてもよいタイミングか」というのが自然と分かるものですが、お互いに働く姿が見えないリモートワークでそのタイミングを見極めるのは至難の業でしょう。オフィスでは無意識に「周囲の観察」をしたうえで、私たちは雑談を開始していたのです。結果的に「何気ない会話量」は減り、雑談でリラックスをするようなことは難しくなります。
雑談は、業務上の無駄な行為と捉えられることもありますが、雑談の中で知る情報が業務遂行で活かされ得るという可能性や、従業員の幸福度向上、その結果として生産性向上に資するという可能性にも、最近は注目がされています。
それならば、と、「リモートワークで雑談をしよう!」と機会を設定すると、変にあらたまってしまったり、何を話してよいかわからなくなったりと、意外に難しいことに気づきます。そうなると次に検討したくなるのは、雑談を開始する前にオフィスでは何気なくやっていたような「周囲の観察」を、リモートワーク下でも再現できないか、という点ではないでしょうか。

オフィスでの観察を再現したい、が…

「オフィスにおける観察を再現したい」というニーズはやはりあるようで、リモートワークにおいてもWebカメラを通して、常時顔を合わせるようにしている組織もあるようです。しかしながら、そのような施策はリスクがあるのも事実です。
昨年、マイクロソフト社が「プロダクティビティ・スコア」という新機能を発表した際に批判を受け、その機能を削除することを決定したという報道がありました。「プロダクティビティ・スコア」とは、Microsoft 365のビジネスプランに加入した企業が、各従業員のマイクロソフト製品の利用動向を把握できる、例えば「カメラがオンになった回数」や「グループウェアを何時間利用したか」が把握できる機能だったようです。結局、従業員のプライバシーを著しく侵害する恐れがあるという批判を受け、当該機能を削除し、「今後は、個人ではなく組織単位でのデータのみを集計する」という方針をマイクロソフト社は出しています。
この事例は、サービス提供者にまつわる話ではあるものの、いわゆる“モニタリングツール”を使う側の企業としても、従業員個人のプライバシー侵害の恐れのある施策については慎重になるべきだということを表しています。現に、イギリスの労働組合プロスペクトと調査会社YouGovが、イギリスの1,816名の労働者に行った調査によると、80%以上の労働者が「カメラによるモニタリングは不快である」と捉え、48%の労働者が「モニタリングツールの導入は上司との関係性に傷をつける」と回答しています。法的なリスクや評判リスクだけでなく、従業員のエンゲージメントや従業員同士の関係性に、悪影響がありうることが示唆されています。

リモートワークで観察は諦めるべきなのか? -「仮想オフィス」という選択肢―

それではリモートワーク下では、「観察」を諦めるべきでしょうか。
「仮想オフィスツール」という選択肢には、まだ検討の余地があるかもしれません。「仮想オフィスツール」とは、オンライン上で“まるでオフィスにいるかのように”社員同士がコミュニケーションを取れるよう、何らかの形式で疑似的にオフィスを再現するようなサービスやソフトウェアのことを指します。筆者の見解では「①アバターとオフィスレイアウトを可視化するタイプ」と「②それ以外の方法で、程よい空間・時間共有性を演出するタイプ」とで、仮想オフィスツールは2つにカテゴライズができます。

アバターとオフィスレイアウトを可視化するタイプのツール

例えば、My Digital Office、Sococo、Remo Conferenceなどのツールは、オンライン上でオフィスレイアウトを再現し、そのレイアウト上にユーザーである従業員のアバターを存在させることで、オフィスにいるかのような感覚を喚起します。

My Digital OfficeやSococoは、いわゆる正統派のオフィスレイアウトを採用していますが、Sococoではレイアウトが70種類以上から選択ができるようです。

<Sococoのオフィスレイアウトイメージの一部(テレワークマネジメント社webサイトより)>

 
Remo Conferenceは「島型形式(もしくはアイランド形式)」と呼ばれる、グループディスカッション時に使用するようなレイアウトを再現しています。参加者は自由に”島”を行き来することもできます。

<Remo Conferenceのイメージ(Remo社webサイトより)>

Remo Conferenceはオンラインイベントの際に多く使用される印象があるツールですが、例えばオンライン上で休憩スペースを再現するように使用したり、就業時間後の飲み会を再現するように使用したりと、日常的に雑談を発生させるツールとして取り入れている組織もあるようです。

それ以外の方法で、程よい空間・時間共有性を演出するタイプのツール

オンラインなのだから、何もオフィスレイアウトを再現しなくてもよい、という発想も十分にあり得ます。

Remottyの画面では、オフィスレイアウトとアバターではなく、各々の従業員の顔写真アイコンが並びます。

<Remottyのイメージ(Remotty製品サイト内の動画より)>

並んでいる顔写真は、約2分間に1回撮影する静止画をアップロードするものですが、画像の共有ではなく、在席状況をカメラで判定して表示する機能に切り替えることも可能です。顔写真アイコンをクリックすることで、特定の人に話しかけることやテキストメッセージを送るということもできますし、「ひとり言」として誰に宛てる訳でもない言葉をつぶやくと、右側のタイムラインに流れていく仕様になっています。オフィスでは、誰か特定の人に話しかけることもあれば、直接話している訳ではなく、話している人同士の会話が耳に入るということがありますが、まさにそのような場面をオンラインならではの方法で再現しています。
 
また、筆者が注目するのはTandemというツールです。TandemはY Combinatorに出資を受けたサンフランシスコのスタートアップが提供する仮想オフィスツールです。このツールが特徴的なのは、「オフィスで働いている際に“誰が何をしているのか”が無意識にわかる」、あの感じを再現してくれることです。どういうことかというと、Tandemでは在席状況に加え、「その人が今使っているアプリケーションが何か」を表示してくれます。

<Tandemのイメージ:名前の横に使用中のアプリケーション名が表示される(Tandem製品サイトより)>

私たちがオフィスにいる際の観察は、何も同僚の顔をじっと見ている訳ではありません。どちらかというと、同僚や部下が作業中のPC画面が無意識に目に入り、「今はパワーポイントであの資料をつくっているのだな」などと気づき、時には「あれ、まだあの作業やっているのか。悩んでいるのかな」などと思い至り、サポートを申し出たり、指導をしたりする、というのが自然な流れではないでしょうか。使用するアプリケーションを見られることに「監視されている」と思う人はあまりいないでしょうから、不快感も比較的少ないでしょう。

オンラインだからこそできる雑談もあるかもしれない

リモートワークでは、オフィスにて対面で働いている際にはできたことがやりづらくなる側面が、確かにあります。しかしながら「(オフィスの際にはフロアが異なり話しかけづらかったが)物理的な距離を気にせずに話しかけられる」「(オフィス出社時は子供のお迎えがあって参加できなかったが)お迎え後の夜の時間にオンラインだからこそ懇親に参加できる」というような、オンラインだからこそ生まれる雑談もあるかもしれません。
 
また、ツール自体の進化も期待できます。現状の仮想オフィスツールも、周囲の観察をはじめとして「オフィス体験」をかなりの程度再現しますが、将来的には「オフィス体験以上の体験」を提供できるツールになるかもしれません。
Teamflowというツールは、仮想オフィス空間で自身のアイコンを簡単に動かすことができ、アイコン同士が近づけば他のアプリケーションを立ち上げることなく、声が聞こえてきます。逆にアイコン同士が離れれば、自然と声は聞こえなくなります。リモートワークにおいて、現状は選択の余地なくテキストベースのコミュニケーションが中心になってしまいがちですが、Teamflowでは音声のコミュニケーションを余計な操作なしに取ることが可能となるので、よりオフィスにいる感覚に近いでしょう。

<Teamflowのイメージ(Teamflow製品サイトより)>

また、様々なアプリケーションを一元的にみることが可能で、画面共有のためにweb会議ツールを立ち上げる必要はありません。会議室に長時間缶詰めになって作業する、締切間際にはそのようなこともオフィスにいるとあるかと思いますが、Teamflowであれば、場所も気にせず、会議室の予約も片付けも不要です。
 
Teamflowは最近までベータ版での提供に留まっていましたが、サブスクリプションサービスを開始しました。最新技術を駆使した仮想オフィスツールは、ベータ版提供を含めると、他にも様々に存在しています。コロナ禍における「対面できない」という制約を逆手に取り、これらの仮想オフィスツールを用いて、オンラインならではの体験を設計してみる、よい機会なのではないでしょうか。
 
 

【インターネットサーベイ調査概要】

<実施詳細>

  • 配信:2020/08/21
  • サンプル回収数:300サンプル
  • 配信・回収条件
    年齢:20歳~69歳
    性別:男女
    配信地域:全国
    対象条件:有業者(自由業を除く)のうち、従業員数10名以上の会社に勤める人で「勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社している」もしくは「基本的に毎日、リモートワークで働いている」を選択した人

 
<設問と回答選択肢>
:リモートワークで、社内における対面コミュニケーションが減少したことは、ご自身にとって良いことですか。悪いことですか。
選択肢:非常に良いことである/やや良いことである/社内における対面コミュニケーションが多かった時と比較して、自分の感じ方に特に変化はない/やや悪いことである/非常に悪いことである/社内における対面コミュニケーションの量は減少していないので、評価できない

 

:社内の対面コミュニケーションが減少したことで、うまくできずに困っていることはありますか。(いくつでも)
選択肢:上司への報告・連絡・相談/部下や後輩への指示・指導や育成/自分の仕事について、上司以外の人に相談すること/他部署や他チームの動向や、周りの人の仕事の状況を自分が知ること/自分の仕事の状況を、周りの人に知ってもらうこと/他の社員の心身の状態を、自分が知ること/自分の心身の状態を、周りの人に知ってもらうこと/他の社員の人となりを、自分が知ること/自分の人となりを、周りの人に知ってもらうこと/新たなアイディアやイノベーションの創出/部下の人事評価/ビジョンやミッションなどの目指すものを共有すること/KGIやKPIなど、業績評価指標を共有すること/問題意識・課題意識を共有すること/何気ない会話でリラックスをすること/ホワイトボードなどの設備を使い、会話を可視化しながら議論をすること/相手の繊細な表情や声色の変化を認識しながら、対話をすること/その他(自由記述)/うまくできずに困っていることは特にない(排他選択肢)

 

<結果の集計における備考>
問:リモートワークで、社内における対面コミュニケーションが減少したことは、ご自身にとって良いことですか。悪いことですか。
については、選択肢「社内における対面コミュニケーションの量は減少していないので、評価できない」を除いた5スケールのうち、「社内における対面コミュニケーションが多かった時と比較して、自分の感じ方に特に変化はない」以外の4つの選択肢を肯定的と否定的な回答に2項目ずつまとめたうえで図表化している。

出 典
Sococo製品webサイト(テレワークマネジメント社)
Remo製品webサイト(Remo社)
Remotty製品webサイト(ソニックガーデン社)
Tandem製品webサイト(Tandem Communications Inc.)
Teamflow製品webサイト(Crivello Corp.)
Forbes JAPAN “マイクロソフトの「従業員監視ツール」に批判殺到、機能を削除”
ComputerWeekly.com “How to monitor remote workers humanely”および”Employees overwhelmingly hostile to workplace monitoring tech”
プロスペクト ”Workers are not prepared for the future of working from home”
TechCrunch ”Teamflow lands $3.9 million for a productive virtual HQ platform”


【関連記事】

<引用・転載ついて>
  • 本サイト記事の引用・転載の際は、必ず「出典:カオナビHRテクノロジー総研」と明記してください
  • Webページなど電子的な媒体への引用・転載の場合、該当記事のURLも加えて掲載ください。
  • 報道関係者様による引用・転載の場合、掲載動向の把握のため、こちらまでご連絡いただけますようお願い致します。

最近の投稿

カテゴリ別アーカイブ

年別アーカイブ

<引用・転載ついて>
  • 本サイト記事の引用・転載の際は、必ず「出典:カオナビHRテクノロジー総研」と明記してください
  • Webページなど電子的な媒体への引用・転載の場合、該当記事のURLも加えて掲載ください。
  • 報道関係者様による引用・転載の場合、掲載動向の把握のため、こちらまでご連絡いただけますようお願い致します。

トップへ

トップへ

Copyright © kaonavi, inc.
All Rights Reserved.