タレントインテリジェンス総研調査レポートREPORT

2026.08.31
レポート

地方公務員の離職を防ぎ、若手職員に選ばれる組織へ―「配置・異動」の課題をデータ活用とマネジメントの両輪で解く


要約

生産年齢人口の減少に伴い、地方自治体では採用難と若手職員の離職増加が進んでおり、2045年には職員充足率が78.0%まで低下すると推計されています。若い世代が「主体的なキャリア形成」を重視する一方、画一的な「配置・異動」が納得感を下げ、離職リスクを高める要因になり得ます。
本レポートでは、心理学の「自己決定理論」の観点から職員の欲求を満たす環境づくりの重要性を提示し、タレントマネジメントシステムを用いたデータマッチングと、マネジメント層の関わり方の変革を両輪で進めることを提言します。

目次

はじめに

日本社会は、生産年齢人口の減少という構造的な転換期を迎えています。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」によると、2070年の生産年齢人口は2020年対比で約4割減少する見通しです。これは特定の業界に限った話ではなく、地方自治体もまた、この労働市場の変化と無関係ではいられません。
 
これまで地方公務員は、安定性や公共性への信頼から、人材を確保しやすい職業と捉えられてきましたが、近年はその状況が変わりつつあります。 外部から新たな担い手を呼び込むという発想だけでは、この構造変化に対応しきれない状況が生まれつつあります。そのため、これからの自治体経営においては、公共への貢献を志し、自治体職員の道を選んだ貴重な人材の自己実現を支え、「ここで働き続けたい」と思えるような組織づくり、すなわち職員の意識改革やエンゲージメントの向上が不可欠です。
 
そこで本レポートは、地方自治体における人材課題の背景を整理したうえで、こうした職員の意識改革やエンゲージメント向上を実現する手がかりとして、「内発的動機づけ(自発的な意欲ややりがい)」という状態に着目し、これがどのような条件で生まれ、育っていくのかを説明する心理学の理論である「自己決定理論」の観点から、自治体の抱える構造的課題の解決にどのような役割を果たし得るかについて検討します。

本レポートについて

地方公務員の人材課題という社会的テーマに対し、統計データの分析に加え、動機づけ理論の専門家への取材を通じて、実務に資する示唆を導き出すことを目的としています。地方自治体の構造的課題を公的統計やマクロデータの観点から分析する日本総合研究所と、タレントマネジメントの知見を持つカオナビが運営するタレントインテリジェンス総研が、それぞれの専門性を持ち寄り共同で調査を行いました。

地方公務員の「担い手不足」と採用難・若手職員の価値観変化

①採用難

図1は、地方自治体における過去10年間の競争試験の受験者数・競争倍率の推移を示したものです。受験者数は537千人から389千人へと一貫して減少しており、競争倍率も6.6倍から4.1倍へと低下しています。総人口・生産年齢人口の減少という構造的要因に加え、若者の公務員志向そのものが弱まっていることがうかがえます。

 

図1:過去10年間の競争試験における受験者数、合格者数及び競争率の推移

過去10年間の競争試験における受験者数、合格者数及び競争率の推移

出典:総務省「令和6年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」よりタレントインテリジェンス総研が作成
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei11_02000254.html

 

こうした傾向が続いた場合、地方公務員の不足はさらに深刻化することが見込まれます。図2の推計によると、地方行政へのニーズ(需要)に対する職員の充足率は、2030年の91.8%から年々低下し、2045年には78.0%にまで需給ギャップが拡大していく見通しです。採用活動の強化といった従来の延長線上にある対策だけでは、この構造変化への対応は難しくなると考えます。

 

図2:地方公務員不足の将来推計(市町村、普通会計)

地方公務員不足の将来推計(市町村、普通会計)

出典:総務省「地方公共団体定員管理調査結果」「人口推計」等より日本総合研究所が作成したデータをもとに、タレントインテリジェンス総研が作成
https://www.jri.co.jp/file/report/jrireview/pdf/12542.pdf

②在職者の離職増加とその背景

採用が困難になる一方で、在職中の職員の離職も増えています。地方公務員のうち一般行政職における普通退職者数は、50歳未満の層でこの約10年で約2.8倍に増加(図3_1)しており、特に30代以下の若手職員における増加が顕著です。(図3_2)

 

図3_1:普通退職者(一般行政職)の推移_年度別推計

普通退職者(一般行政職)の推移_年度別推計

 

図3_2:普通退職者(一般行政職)の推移_年代ごとの年度別推移

普通退職者(一般行政職)の推移_年代ごとの年度別推移

出典:総務省「地方公務員制度等 地方公務員の退職状況等調査」より日本総合研究所が作成したデータをもとに、タレントインテリジェンス総研が作成
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/koumuin_seido/koreitaisaku.html

 
退職理由を尋ねたアンケート(退職公務員299人対象)によると、「組織が旧態依然のままで変革が期待できそうにない」「地方公務員を続ける意義を見出せなくなった」が上位を占めた一方、「給与や待遇が不満」は最も少ない回答に留まりました。報酬水準の問題というより、働くことへの意味づけや成長実感に関わる課題が離職の主な背景にある可能性が示唆されます。
 

図4:地方公務員退職理由アンケート

地方公務員退職理由アンケート

出典:「地方公務員退職理由アンケート結果」より日本総合研究所が作成したデータをもとに、タレントインテリジェンス総研が作成
https://note.com/sa_ya/n/ndbd479df98a6

③技術職における人材不足

職種別に見ると、専門性を要する技術職の不足が特に深刻です。総務省「ポスト・コロナ期の地方公務員のあり方に関する研究会(第4回)資料」では、土木技師・保健師・建築技師などの不足感を訴える団体が多数にのぼっています。
 
こうした専門人材の欠如は、インフラ維持や公衆衛生といった住民サービスの根幹に直結するものであり、単なる人手不足の問題を超えた、地方自治体が担う行政機能の持続可能性に関わるリスクとして捉える必要があります。

若手職員の主体性を奪う「人事異動・配置」の壁とキャリア志向の変化

前章では、離職者の増加は特に30代以下の若手職員において顕著であることがわかりましたが、そこにはどのような背景があるのでしょうか。
 
まず押さえておきたいのが、若い世代における働くことへの価値観の変化です。就職先を選ぶ際の決め手として、かつては「社員や社風が魅力的である」などの組織依存的な意見が上位を占めていましたが、近年は「自分のやりたい仕事(職種)ができる」が逆転し、自律的な意見がトップとなっています。(表1)
 

表1:学生の内(々)定受諾の最終的な決め手

学生の内(々)定受諾の最終的な決め手

出典:リクルートマネジメントソリューションズ「2026年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」に黄色枠をタレントインテリジェンス総研が追記
https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/7236681484/

 
また、若手・中堅社員に行った調査では、25〜44歳の会社員の8割以上が「自律的・主体的なキャリア形成をしたい」と回答していることがわかり、仕事への主体性や自己成長を重視する傾向は、大学生に限らず在職者にも広く共通しています。
 

図5:若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に対する考え方

若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に対する考え方

出典:リクルートマネジメントソリューションズ「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」より、内閣官房が作成した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」データをもとに、タレントインテリジェンス総研が作成
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2024.pdf

 
こうした価値観の変化を踏まえると、現行の配置・異動と、若手職員の意識とのギャップが浮かび上がります。近年よく使われる「配属ガチャ」という言葉の背景には、希望が叶わない不満だけでなく、配属の意図やキャリア上の意味合いが本人に見えにくいことによる「納得感の低さ」も一因としてあると考えます。
 
配置・異動をめぐっては、自治体の人事担当者から次のような課題感が共通してみられます。
 
● 職員のキャリアを磨いていく必要があると認識はするものの、専門性を極めていくという配置をする制度になってなくギャップが大きい(個々人がキャリア展望を描けない)
● 個人の経験と勘を頼りにした人事、また玉突型で所属の定数設定もあるので最終的には人数調整的な異動配置も実施しなければいけない
 
もちろん組織運営上、すべての希望を満たす配置・異動は難しく、定期的な異動には自治体運営の全体像を把握できるというメリットもあります。しかし、画一的な部署異動の繰り返しは、特定の専門性を築きたい若手にとって、キャリアの連続性を感じにくくさせる要因ともなり得ます。「自分のキャリアを主導できている」という感覚を持ちにくい環境は、自律的なキャリアを望む若手の離職につながるリスクがあります。地方自治体にとって、いかに異動・配置への納得感を醸成していくかは、採用・定着の両面で重要な論点です。

職員の志向と自治体ニーズのデータマッチング

では、こうした「異動・配置における納得感」を高め、職員の主体的なキャリア志向と組織運営を両立させるには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。その一つのヒントとして、心理学の動機づけ理論である「自己決定理論(SDT:Self-Determination Theory)」に着目します。
 
人の「やる気」は、行動そのものへの興味や楽しさから生まれる「内発的動機づけ」と、報酬を得る、あるいは罰を避けるためといった、行動の外側にある要因によって生まれる「外発的動機づけ」に大別されます。Deci & Ryan(2000年)が提唱したSDTでは、この外発的動機づけを一様なものとして捉えず、「命じられて仕方なく行動している」状態から「自分にとって重要なことだと納得して行動している」状態まで、段階的に変化していくものとして捉えます。(図6)
 

図6:自己決定理論の対象範囲

自己決定理論の対象範囲

出典:日本総合研究所が作成したデータをもとに、タレントインテリジェンス総研が作成

 
この変化、すなわち外発的動機づけが自分のものとして内在化されていくプロセスを後押しするのが、人が生まれながらに持つ「自律性(自分で選んでいる感覚)」「有能感(うまくできている感覚)」「関係性(他者とつながっている感覚)」という三つの基本的心理的欲求です。SDTは、この三つの欲求が満たされる環境にあるほど、外発的動機づけの内在化が進み、モチベーションやパフォーマンスも最大化すると示しています。(図7)
 

図7:自己決定理論における3つの基本的心理的欲求

自己決定理論における3つの基本的心理的欲求

出典:日本総合研究所が作成したデータをもとに、タレントインテリジェンス総研が作成

 
「異動・配置」は本来、組織側の意向によって決まるという意味で外発的な性質を帯びた出来事です。しかし、その配置の中で職員が「自分の強みを活かせている」という有能感や、「自分の意思もそこに反映されている」という自律性を感じられれば、その異動・配置は職員自身にとって、より納得感のある「自分ごと」として受け止められるようになります。
 
こうした自律性や有能感は、本人の希望職種やスキルといった表面的な情報だけでは捉えきれません。日々の業務の中で、職員自身が「自分の意思で選んでいる」「上手くできている」と感じられる行動そのものを言語化・可視化していくことが求められます。こうして把握された職員一人ひとりの行動特性と、各部署が求める人材像を照合していく、そのための実践的な手段として、タレントマネジメントシステムの活用が考えられます。
 
もっとも、こうした仕組みを整えるだけで、組織が劇的に変わるわけではありません。SDTの知見が示唆するのは、たとえ精緻な制度を導入しても、それを運用する周囲のリーダー・マネジャーが、自律性・有能感・関係性を支える関わり方をしなければ、職員の欲求充足や意識変容には結びつきにくいという点です。データを用いた仕組みの導入と、マネジメント層の関わり方の変革を両輪で進めることこそが、自治体人事を成功に導く不可欠な要素です。
 
※本章における「自己決定理論」を異動・配置の文脈で捉える視点については、教育心理学・発達心理学を専門とされる早稲田大学 上淵寿先生から助言をいただいた上で、作成しています。
 
【上淵寿氏のプロフィール】
早稲田大学 教育・総合科学学術院(大学院教育学研究科)教授
専門は教育心理学・発達心理学。動機づけと学習の関係、感情の発達を中心に研究

まとめ

地方自治体における人材不足は、景気循環や一時的な政策対応で解消されるような性質のものではなく、人口構造の変化に伴う持続的な課題です。本レポートで取り上げた「職員の行動特性と各部署が求める人材像を照合していく」というアプローチは、あくまで課題解決に向けた一つの方向性であり、その有効性については実証的な検討が必要です。ただし、職員の自律性や有能感をデータとして可視化し、組織のニーズと突き合わせていくという発想、そして、それを支えるマネジメント層の関わり方を見直していくという視点は、属人的な判断に依存してきた従来の人事運用を見直す契機になり得ると考えています。
 
タレントインテリジェンス総研と日本総合研究所は今後も、こうした取り組みを通じて地方自治体の人材マネジメントのあり方について、継続的に調査・発信していきます。

参考文献

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」
https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp2023_gaiyou.pdf

 

総務省「令和6年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」
001048298.pdf

 

日本総合研究所「地方公務員は足りているか」
https://www.jri.co.jp/file/report/jrireview/pdf/12542.pdf

 

総務省「地方公務員制度等 高齢対策」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/koumuin_seido/koreitaisaku.html

 

「地方公務員退職理由アンケート結果」
https://note.com/sa_ya/n/ndbd479df98a6

 

総務省「ポスト・コロナ期の地方公務員のあり方に関する研究会(第4回)資料」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000790977.pdf

 

リクルートマネジメントソリューションズ「2026年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」
https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/7236681484/

 

リクルートマネジメントソリューションズ「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」
https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/0000000358/

 

内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2024.pdf

 

E. L. Deci & R. M. Ryan (2000) Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being
https://selfdeterminationtheory.org/SDT/documents/2000_RyanDeci_SDT.pdf


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