タレントインテリジェンス総研調査レポートREPORT

2026.10.16
イベント

金曜16時 上司からいきなり「来週少し話しましょう」 その一言が頭から離れないのはなぜ?【タレントインテリジェンス総研ゼミVol.1 レポート】


要約

2026年9月14日に開催された「タレントインテリジェンス総研ゼミVol.1」のレポートです。
精神科医の物部氏を講師に迎え、ミドルマネージャーが直面する「気分」の影響や、不安・感情に振り回されないマネジメント技術について学びました。講義では、思考の癖に気づく「認知的再評価」や、仕事の「中断」が引き起こす影響などの実践的な知見が共有され、後半のワーク・交流会でも活発な意見交換が行われました。

読了目安時間

6分程度

目次

金曜16時 上司からいきなり「来週少し話しましょう」 その一言が頭から離れないのはなぜ

2週間かけて作った企画書を、金曜16時に上司へ送る。返ってきたのは、「ありがとう。来週少し話しましょう」という短いメッセージ。

「修正が必要なのだろうか」「評価が低かったのかもしれない」。用件はまだ分からないのに、帰宅後も、週末になっても、その一言が気になる——。

これは、2026年9月14日に開催された「タレントインテリジェンス総研ゼミVol.1 ースタンフォードMBAの精神科医から学ぶ 気分に振り回されないマネジメント技術」で、講師の物部氏が示した場面です。上司の言葉を受け止める立場でありながら、部下には落ち着いて接することも求められる。ミドルマネージャーにとって、気分は仕事から切り離せないテーマかもしれません。

今回のセミナーでは、精神科医である物部氏の講義に続き、参加者が自分や周囲の気分について振り返るワークを実施。交流会でも、職場での経験や対処法をめぐって会話が続きました。
 

<講師 プロフィール>

物部 真一郎

物部 真一郎(ものべ しんいちろう)氏
超楽長寿株式会社 代表取締役医師

精神科医・起業家。高知医科大学(現・高知大学)医学部在学中、自身のうつ病をきっかけに「気分が人の行動や意思決定を大きく左右する」ことを実感。卒業後は精神科医として臨床に従事。スタンフォード大学経営大学院に留学し、心理学・行動経済学を学びMBAを取得。帰国後、医療系スタートアップの株式会社エクスメディオリオを創業し、2019年に株式会社マイナビへバイアウト。現在は高知大学医学部特任准教授として教育・研究に携わる傍ら、非常勤医師として臨床にも従事。日本スタートアップ協会理事、日本医療ベンチャー協会理事。CBCテレビ『ゴゴスマ』コメンテーターも務める。

著書:『最新科学でわかった!気分のいい人がうまくいく』

 

ミドルマネージャーをどう支えるか

冒頭に登壇したカオナビ タレントインテリジェンス総研 所長の表は、人事データとAIを現場で働く人の支援に生かしたいという考えを紹介しました。なかでも念頭にあるのが、多くの役割を担うミドルマネージャーです。

人事データやAIには、管理職の仕事をどう支える可能性があるのか。その問いを持つシリーズの第1回で取り上げたのは、「気分」でした。物部氏は精神科医としての経験に加え、ビジネスや行動経済学の視点から、気分が仕事に及ぼす影響と、その扱い方を語りました。

「ネガティブな性格だから」で終わらせない

同じように忙しくても、比較的早く気持ちを切り替えられる人がいます。反対に、一つの出来事が長く頭から離れないこともあります。その違いを「性格だから」と捉えると、変えようがないように思えてしまいます。
 
物部氏は講義の冒頭で、こう話しました。
「打たれ強さ・弱さは、性格の問題にすると、打つ手がなくなる」
物部氏が示したのは、気分に関わる思考の動きを、身についた「癖」として捉える視点です。癖であれば、まず気づくことができる。そして、いつもの考え方に引っ張られたときの対処を練習できます。

金曜16時の上司からのメッセージの話に戻ってみましょう。「来週少し話しましょう」には、まだ良い話とも悪い話とも書かれていません。それでも、直感的に「まずいことが起きた」と感じたり、悪い可能性ばかりを探したりする。夜になって同じことを繰り返し考えるうちに、最初は単なる可能性だったものが、確かな事実のように感じられることもあります。
 
講義では、こうした思考の癖を、メッセージを見た直後から週末までの時間の流れに沿って紹介しました。自分の頭の中で何が起きているかを知ることが、気分に引きずられすぎないための手がかりになります。

目指すのは、気分を上げ続けることではない

「モチベーションを上げよう」「前向きに考えよう」。仕事では、気分を上向きにする言葉をよく耳にします。しかし、物部氏が強調したのは、別の方向でした。
 
「大事なことは、落ち込まないことではなく、落ち込んでも早く戻れること」
 
講義後の質疑応答では、所長の表も「とりあえず戻そう」という考え方が印象に残ったと話していました。気分には波があります。落ち込むたびに無理にテンションを上げるよりも、自分にとって心地よい状態へどう戻すか。その「戻り方」を知っておくことが大切だ、というメッセージです。
 
では、気分を戻すためには何ができるのでしょうか。

考えが”ぐるぐる”するときは、書いて、小さく確かめる

物部氏が紹介した方法の一つが「認知的再評価」です。出来事そのものに加え、自分がそれをどう受け止めたかに目を向けます。
 
最初にするのは、今の気分に名前をつけること。「不安」「腹が立っている」など、自分の言葉で構いません。次に、その気分につながった考えを取り出してみます。たとえば、「上司は自分の企画書に不満なのだ」と思ったなら、そう考えた根拠と、それ以外の可能性を書き出します。
 
頭の中だけで考え続けると、同じところを回りがちです。書くことで、自分が知っている事実と、まだ確かめていない想像を見分けやすくなります。その上で、必要なら用件を尋ねるなど、小さく行動してみる。物部氏は、予測が外れた経験を重ねることも、捉え方を変えていく助けになると話しました。
 
会場からは「”書く”とは手書きでなければならないのか、タイピングでもよいのか」という質問も出ました。物部氏は、方法による効果の違いについては回答を持ち合わせていないとした上で、自分が整理しやすい方法で書くことを提案しました。質問と応答を通じて、「まず試してみる」ことのハードルが少し下がったように感じられました。

仕事の進め方にも、気分を踏まえる

講義では、考え方を見直す方法に加え、日々の仕事の進め方も話題になりました。
 
物部氏は、気分が良いときには発想が必要な仕事に取り組み、そうでないときには比較的進めやすい作業を選ぶ、という自身の例を紹介。また、気分が大きく落ち込んでいるときは、その状態で重要な決断をしないことにも触れました。
 
もう一つ印象的だったのが、仕事の中断です。メッセージが次々に届き、会議の合間に別の作業を進める。管理職には身近な光景ですが、一旦手を止めた仕事に戻るまでには、思いのほか間が空くことがあります。講義中、物部氏が紹介した研究によれば「いったん中断された作業に同じ日のうちに戻るまでには、平均で約25分かかる」そうです。「ちょっとだけ」のつもりが、長く別のタスクに注意を払い、ようやく戻ってきた時には「さっきはどこまでやっていたっけ?」と思い出すことから始まる。効率が落ちてしまいます。
 
物部氏は、一つのことに集中できる時間をつくる大切さを話し、自身も会議を減らしたり、社内のメッセージが動かない時間を設けたりしていると紹介しました。気分への対処というと、自分の考えを変えることだけに目が向きがちです。しかし、通知や会議のあり方を見直すことも、落ち着いて働ける環境づくりの一つでしょう。仕事量など状況そのものに問題がある場合は、その状況への対処も必要です。

部下の機嫌が悪い時、どうしていますか

講義後のワークでは、参加者が、自分の気分が悪くなったときの経験と、部下や周囲の人の気分が悪そうなときの対応を振り返りました。その後、近くの参加者と気づきを共有します。

ある参加者は、自分が不機嫌なときには一旦その場を離れ、落ち着くのを待つことが多いと話しました。部下やメンバーに対しても、すぐに解決しようとするより、少し距離を空けることがあるそうです。
 
講義を聞いた直後でも、相手の気分をどう扱えばよいかに、簡単な答えはありません。そもそも、目の前の人がなぜ不機嫌なのかは、外からは分からないこともあります。ワークでは、自分の普段の対応に気づくと同時に、他の人のやり方に触れる時間が生まれていました。

交流会で聞いた 管理職それぞれの実践

ワーク後の交流会でも、話は続きました。
 
ある参加者は、自分や部下が気分を落とした経験を、講義で聞いた「脳の癖」と結びつけて考えられたことが面白かったと話してくれました。別の参加者からは、部下の給与体系を変更した際、お互いにストレスのある話題だったからこそ、あまり間を空けずに対話を重ねたという経験が聞かれました。
 
「時間が経ってしまうと、お互いに疑心暗鬼になったり、気分が悪いのが続いてしまう」
 
不機嫌な人がいるときは距離を置く、という声もあれば、話し合いを先延ばしにしない、という声もある。対応は異なりますが、どちらも相手との関係や場面を見ながら選ばれた方法です。この違いこそ、参加者同士で話す意義かもしれません。講義で得た知識を、各自が経験してきた難しい場面に当てはめる。その結果、「自分ならどうするか」を考える材料が増えていきます。

気分の扱いを、管理職一人の課題にしないために

今回の講義では、自分の気分に気づき、考えを書き出し、小さな行動で確かめる方法を学びました。一方、ワークで「部下の気分が悪い時」を考えてみると、管理職には別の難しさもあります。相手が何を感じているかは本人にしか分かりません。それでも、仕事を進めるために、声をかけるか、少し待つか、対話の場をつくるかを判断しなければなりません。
 
管理職に「部下の気分をうまくマネジメントしてください」と求めるだけでは、負担を増やしてしまうでしょう。必要なのは、管理職が一人で相手の状態を推測し続けなくても、対話や判断ができる環境ではないでしょうか。
 
ここで、人事データやAIの使い道も考えられます。例えば面談の前に、本人が共有している情報や、これまでの対話を振り返り、確認したいことを整理する。あるいは、自分が「部下はきっとこう思っている」と決めつけていないか、別の見方や質問の仕方を考える。相手の気持ちをAIに判定させるのではなく、管理職自身の考えを整理し、対話に備えるために使うという発想です。
 
これは、今回の講義で具体的な活用法として示されたものではなく、筆者が話を聞きながら考えた可能性です。交流会で物部氏にAIについて尋ねた際にも、日記などを通じた自己対話への使い道が話題になりました。ただし、AIの答えをそのまま正解とすることはできません。最後は本人と話し、確かめることが必要です。
 
人事データやAIが、管理職の代わりに部下を理解してくれるわけではありません。それでも、忙しい日々の中で立ち止まり、「自分は何を知っていて、何をまだ知らないのか」を整理する助けにはなりえます。ミドルマネージャーを支える技術を考えるなら、そうした使い方から始められるのではないでしょうか。
 
カオナビ タレントインテリジェンス総研では今後も、ミドルマネージャーが日々の仕事で向き合う問いを取り上げていきます。次回は11月17日開催予定。詳細とお申し込みは、こちらをご覧ください。
 

<次回開催概要>

  • イベント名:タレントインテリジェンス総研ゼミVol.2「AI時代の管理職とパーソナリティデータ 〜ソフトバンク人材開発部長と考える〜」
  • 登壇:ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 人事総務本部 採用・人材開発部 人材開発部 部長 岩月優氏
  • 日時:2026年11月17日 19:00~21:00(18:30受付開始)
  • 会場:カオナビ本社(東京都港区赤坂1-8-1 赤坂インターシティAIR 33F)
  • 定員:30名程度
  • 対象:ミドルマネージャー(課長/部長/マネージャー/リーダー など)
  • 参加費:無料
  • 特典:先着順で、岩月氏の著書『グロースマネジャー 〜新任管理職のキャリア開発〜』をプレゼント
  • 主催:タレントインテリジェンス総研

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