カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
会社員の半数が「役立っていない」と捉えるMBOを機能させるには? 〜職場の目標管理(MBO)の実態調査<後編>
1990年代に多くの日本企業に導入されたMBO(目標管理:Management by Objectives)。従業員のモチベーション発揮と企業の利益拡大の両立が目的として、従業員自らが一定期間(年度・半期など)の目標を決め、その目標に基づいた業務遂行を促しますが、実態は「形骸化」しているという課題意識を持つ企業も多いのではないでしょうか。
今回は、効果的なMBO運用を実現するためのヒントを得るために、MBO運用の実態を調査いたしました。前編では、従業員が自身の設定した目標をどの程度「記憶」しているか、進捗を「確認」しているかに着目しました。後編ではSMARTなどと呼ばれる目標の「性質」等に着目をします。
サーベイの概要
- サーベイ対象:事前調査で「自社で目標管理制度(MBO制度)が運用されている」と回答した20〜59歳までの会社員500名
- サーベイ期間:2022年3〜4月
- サーベイ内容:Web上で「目標管理制度」についての質問項目に、選択・記述式で回答
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)
調査結果1:MBOはパフォーマンス発揮に役立つか?
適切な目標を持つことは、仕事のパフォーマンス発揮に有益なはずですが、どのように受け止められているのでしょうか。MBOが仕事のパフォーマンス発揮に役立っていると思うかを訪ねてみたところ、「役立っていると思う」と回答した人は50.6%、「役立っていないと思う」と回答した人は49.4%と、評価が半々に分かれていました(図1)。
調査結果2:「MBOの目標」と「現場の目標」の乖離
MBOの目標が仕事のパフォーマンス発揮に役立つか否かを分ける要因はあるのでしょうか。本レポートでは、「現場」との目標の乖離に着目をして分析をしました。
まず、MBOで設定し人事に提出する目標と「現場」で追求する目標に乖離が生じているかを尋ねてみると、38.4%の職場では乖離が生じていることがわかりました(図2)。続いて、乖離の発生の有無によって、MBOの仕事でのパフォーマンス発揮への役立ち感が変わるかを見ていきます。その結果、MBOと現場目標の乖離があると、乖離が無い場合と比べて、MBOのパフォーマンス発揮への役立ち感が30ptも低いことがわかりました(図3)。
調査結果3:SMARTな目標運用はなされているのか?
MBOの運用において、頻繁に「SMARTの法則」が紹介されます。SMARTとは、以下の英単語の頭文字で、「良い目標」の特徴とされています。
MBOで設定される目標は、こうしたSMARTな目標になっているのでしょうか。
図4は、回答者が直近のMBOで設定した目標について、SMARTの特徴に反する「逆SMART」になっているかを尋ねたものです。その結果、およそ3割の回答者が、逆SMARTな目標を「わざと」設定していました。また、SMARTの特徴の中でも、特に「数値で測りにくい」「曖昧性が高い」目標が意図的に設定されやすいことがわかりました。
日本では1990年代半ば以降、「成果主義」人事を運用するために、MBOが導入されました。こうした背景もあり、従業員にとっては前向きに仕事に取り組み、かつ、高いパフォーマンスを発揮するための「目標」というよりも、「評価ツール」として捉えられており、後から「なんとでも言える」目標設定をする動機づけを高めてしまっているのかもしれません。
調査結果4:逆SMARTな目標設定と転職意向
こうした「逆SMART」な目標設定の運用を、人事として許容することにはリスクを伴いそうです。図5に示した通り、逆SMARTな目標が設定されやすい職場では回答者の転職意向が33%と、そうでない職場と比べて17.8ptも高いようです。逆に言えば、しっかりとSMARTな目標設定がなされている職場では、転職意向が15.2%と比較的低いとも捉えられそうです。
調査結果5:MBOで設定した目標の「修正」
本レポートの前編で示したように、多くの企業では「年度に1度」か「半期に1度」の頻度で目標設定がなされていますが、変化の激しいビジネス環境では、設定した目標が一年後・半年後には適切ではなくなることも多いでしょう。状況にあわせた目標の「修正」はどの程度行われているのでしょうか。
まず、目標修正を行う仕組みがあるかを確認します(図6)。目標修正を行う「仕組み」が用意されている企業は65%と多いのですが、実際に活用されている企業は全体の30%に過ぎないという実態がわかりました。
続いて、「目標修正を行える仕組みがあるが、活用されていない」と回答した人を対象に、なぜ、目標修正の仕組みが活用されていないと思うかを尋ね、上位の理由を図7に示しました。
「業務が忙しくて、修正まで手が回らない」(60.0%)、「修正の承認を得るまでの手続きが面倒」(53.7%)といった回答からは、修正の必要が生じたとしても「手間」といった壁があることが読み取れます。従業員に、状況にあった意味のある目標を追求してもらう上で、修正までのハードルをいかに下げるかということが重要そうです。
もちろん、「評価期間中に、柔軟に、実態を反映させる」(48.6%)という対応もありますが、評価の観点からも、目標によって仕事へのモチベーションを高めるという観点からも、最終調整に頼りすぎるのは、あまり望ましい手段ではないかもしれません。
また、「目標の達成状況と実際の評価が対応していないから」(57.7%)「目標を意識していないから、修正の必要性を検討することが少ないから」といった、MBOへの諦観のような理由も多く挙げられています。前編でも明らかになったように、達成具合と実際の評価との整合性は、従業員の適切なMBOへの参加を促すうえで重要な前提条件といえそうです。
本調査のまとめ
今回のレポートでは、MBO運用の実態を調査することで、効果的なMBO運用のヒントを探索いたしました。カオナビHRテクノロジー総研では、今後も職場におけるMBOについて調査を続けていきます。
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
- 配信:2022/3~2022/4
- サンプル回収数:500サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳以上60歳未満
性別:男女
配信地域:全国
対象条件:有業者(自由業を除く)、「自社で目標管理制度(MBO制度)が運用されている」と回答した方
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