カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
ダイバーシティ推進の現在地―人事1000名の声から読み解く現状と未来予測―

サーベイの背景
前編では、日本企業・組織におけるダイバーシティ推進の現状と、その推進度を左右する要因、さらに今後3年程度の方向性についての人事パーソンの見立てを概観しました。その結果、ダイバーシティは推進基調にある一方で、成果を認識している企業は限られており、また将来の方向性についても「推進」「現状維持」「後退」と見立てが分かれていることが明らかになりました。
こうした結果は、日本企業におけるダイバーシティ推進が一様な段階にあるわけではなく、企業や組織の置かれた状況、直面している課題によって、その捉え方や将来像が異なっていることを示唆しています。とりわけ、少数ではあるものの「後退」を見立てる回答が存在した点は、制度環境や社会的要請だけでは説明しきれない、現場特有の認識や経験が影響している可能性を示しています。そこで本サーベイでは、今後のダイバーシティの方向性について「推進」あるいは「後退」と考える人事パーソンが、そのように見立てる理由に着目しました。あわせて、企業・組織が現在どの領域の多様性を重視しているのか、また今後重視されると考えられている多様性の対象についても分析を行っています。
後編では、こうした結果を通じて、日本企業におけるダイバーシティ推進が、どのような期待や懸念、現実的な制約のもとで語られているのかを整理し、実際に推進されている領域はどこなのかを示します。
サーベイの概要
今回は以下の要領にてインターネットを用いたサーベイを実施致しました
- サーベイ対象:20歳以上66歳未満の企業の人事・労務担当者1,000名
- サーベイ期間:2025年3月24日(月)~2025年3月26日(水)
- サーベイ内容:Web上でダイバーシティについての質問項目に、選択・記述式で回答
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)
今後3年、ダイバーシティはどうなると見立てられているか

-
Q. 今後3年程度で、あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性の方向性はどのようになると想像しますか。(回答者数1,000人)(SA)
※図2まで同様
今後3年程度でダイバーシティは推進されると思うか、あるいは現状維持や後退と思うかを人事パーソンに聞いた結果が図1です。予測の設問のため「わからない・想像がつかない」という回答が23.7%と多くある中でも、推進計(強く推進+ある程度推進)が35.0%、現状維持が33.6%とそれぞれ3割程度となっています。後退計(強く後退+やや後退)も少数ながら、7.7%存在します。
従業員規模によって異なる、ダイバーシティ推進の見通し
従業員規模別で見ると、規模が大きくなるほど推進計(強く推進+ある程度推進)は高くなる、あるいは現状維持は低くなる傾向があることが分かります。従業員数1,000人以上の大規模な組織では、現在の取組み状況として71.8%が推進基調と回答(前編記事の図2より)しており、その上で今後の見立てでも51.4%が推進基調となっています。一方で、従業員数99人以下の小規模な組織では、現在の取組み状況として36.7%が推進基調(前編記事の図2より)で、今後の見立ては18.7%と、大規模な組織と比較すると、現在の取組み状況、今後の見立てのいずれにおいても、推進基調の組織は少ない結果となっています。しかしながら、小規模な組織も「後退する」という見立てはそれほど多いわけではなく、後退計(やや後退+強く後退)が8.8%です。「現状維持」の見立てが40.8%と、大規模組織の23.5%と比べると高くなっています。
ダイバーシティが推進されると考えられている理由
ダイバーシティが推進されるであろうと見立てている理由についても聞いています。
*「Q. 今後3年程度で、あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性の方向性はどのようになると想像しますか。」に「強く推進される」「ある程度推進される」と回答した回答者のみ
用意した理由はすべて、当てはまる計(よく当てはまる+ある程度当てはまる)が60%を超えており、多角的な視点からダイバーシティが推進されるであろうと予測がなされていることがわかります。とはいえ、当てはまる計が80%を超えている項目として「社会的責任の遂行」「優秀な人材の獲得」「人的資本の情報開示への対応」がある一方で、「投資家からの評価の向上」は67.7%と、相対的に低い結果となりました。
上位に挙がった「社会的責任の遂行」「優秀な人材の獲得」「人的資本の情報開示への対応」などは、いずれも企業にとってすでに対応が求められている、あるいは対応の必要性が明確な理由である点が共通しています。これらは、取り組まないことによるリスクが比較的想定しやすく、ダイバーシティが「選択的な施策ではなく、企業活動の前提条件として認識されつつある」ことを示しているといえるでしょう。一方で、「投資家からの評価の向上」や「グローバル市場への対応」などは相対的に低く、ダイバーシティの効果が中長期的・間接的で、現時点では実感しづらい理由については、慎重な見方が残っていることがうかがえます。
ダイバーシティが後退すると見立てられる背景
図1の通り、今後3年程度でダイバーシティが後退すると見立てているのは回答者全体の7.7%と少数ですが、後退と見立てているのはなぜか、理由を聞いています。
*「Q. 今後3年程度で、あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性の方向性はどのようになると想像しますか。」に「強く後退する」「やや後退する」と回答した回答者のみ
当てはまる計(よく当てはまる+ある程度当てはまる)の最多は「無理解な人の多さ(76.7%)」、次点は「同質性を求める人の多さ(70.1%)」となっており、経営者や従業員がダイバーシティを求めない、あるいは拒絶していると認識されると、「ダイバーシティが後退するのではないか」と予測する傾向が強くあるようです。また「効果測定の難しさ」や「業績との関連性の見えづらさ」といった項目は、後退するであろう理由として「よく当てはまる」という強い肯定の選択肢が選択される傾向があり、「効果が可視化しづらい」というのが、将来的な後退を予測する一つの理由になっていることが推測されます。
ダイバーシティ推進は、どの領域から進んでいるのか
図5は、企業・組織において現在どのような多様性が取組み対象となっているのかを示しています。
いずれの項目においても「推進・具体策あり」とする回答が一定程度見られる一方で、「具体策はない」「推進していない」「わからない」といった回答も少なくなく、ダイバーシティの取組みが一様に進んでいるわけではないことがうかがえます。
比較的取組みが進んでいる項目としては、「年齢・年代」「保有する能力・スキル」「過去の職務経験」「職種」が挙げられます。年齢構成の問題は、企業・組織内で顕在化している、あるいはすでに難局を超えたことがあるという組織も多いと思われます。組織運営を安定的に行う上で肝となる人員数をコントロールするためにも、年齢構成のバランスをとる必要があるということは、誰にでも理解されやすいことで、経営陣や現場マネージャーなども問題意識を共有しやすいことが、「年齢・年代」の取組みが進んでいる背景にあるのかもしれません。さらに「保有する能力・スキル」「過去の職務経験」「職種」は、業務遂行に直結するような項目です。業務内容によっては人員数と同等かそれ以上に、特定の能力・スキル・業務経験を持つ人が必要となることを考えると、現場の必要性がダイバーシティ確保を後押ししている可能性がうかがえます。
「男女の格差や違い」は推進度で見ると中位ですが、成果や具体策がある度合が相対的に高いことが分かります。業務遂行上、性別の構成が重要視されるのは一部の業種に限定されるのではないかと思いますが、男女間の格差や現状を数値として報告する義務が法律上あるという企業・組織も多いでしょう。明確な数値の報告の必要性が、成果や具体策に結びついているのではないかと考えられます。
一方で、「性格」「性的指向や性自認」「国籍」といった項目では、相対的に「推進していない」あるいは「わからない」とする回答の割合が高くなっています。これらの領域は、個人の内面やアイデンティティに関わる要素が大きく、そもそもデータ収集の方法やそのデータの扱い方に論点が多く含まれます。また業務上の必要性も、取組みが進んでいる項目と比較すると認識されにくいケースが多く、その結果、相対的に推進度が低くなっていると考えられます。
これらの結果から、日本企業におけるダイバーシティ推進が、「業務や制度と直接結びつけやすい多様性」から段階的に進められている様子が浮かび上がります。今後は、こうした取り組みの蓄積を踏まえつつ、より個人の属性や価値観に関わる多様性をどのように扱っていくのかが、次の論点となっていく可能性があります。
さいごに
本記事からは、日本企業におけるダイバーシティ推進が、決して一様ではなく、領域や組織規模、現場の課題感によって段階差があることが浮かび上がりました。推進基調にあると見立てる人事パーソンが一定数存在する一方で、成果の実感や将来像については、慎重な見方も少なくありません。
また、現在取り組まれている多様性の対象を見ると、業務や制度と結びつけやすい領域から段階的に進められている様子が確認されました。これは、必ずしもダイバーシティの重要性が十分に理解されていないことを意味するものではなく、組織として扱いやすさや説明可能性を重視した、現実的な選択の結果とも考えられます。
一方で、個人の内面やアイデンティティに関わる多様性については、どのように扱うべきか迷いが残っていることも示唆されました。今後、ダイバーシティ推進が次の段階に進むためには、こうした領域に対して、どのような前提やルール、対話が必要なのかを、あらためて考えていく必要があるのかもしれません。
ダイバーシティは、「推進するか、しないか」という二択ではなく、どの領域を、どの順番で、どのような形で扱っていくのかという問いの積み重ねでもあります。本記事が、自社・自組織におけるダイバーシティの現在地を見つめ直す一助となれば幸いです。
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
- 配信:2025/3/24
- サンプル回収数:1,000サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳以上66歳未満
性別:男女
配信地域:全国
対象条件:企業の人事・労務担当者
<設問と回答選択肢(今回調査)>
問:今後3年程度で、あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性の方向性はどのようになると想像しますか。(SA)
選択肢:1強く推進される/2ある程度推進される/3現状維持/4やや後退する/5強く後退する/6わからない・想像がつかない
問:あなたの所属する会社・組織でダイバーシティ・多様性が推進されるであろう理由として、以下の項目があなたの考えにどの程度当てはまるか教えてください。(MTX-SA)
表頭(選択肢):1まったく当てはまらない/2あまり当てはまらない/3ある程度当てはまる/4よく当てはまる/5わからない・判断できない
表側:創造性・イノベーションの源泉になるため/多様な顧客に対応するため/優秀な人材を獲得するため/グローバル市場への対応をするため/対外的な企業・組織イメージが向上するため/多様な視点から経営の意思決定を行うため/投資家からの評価を高めるため/従業員エンゲージメントの向上を図るため/法令遵守・訴訟リスクの低減のため/社会的責任を果たすため/人的資本の情報開示に対応するため
問:あなたの所属する会社・組織でダイバーシティ・多様性が後退するであろう理由として、以下の項目があなたの考えにどの程度当てはまるか教えてください。(MTX-SA)
表頭(選択肢):1まったく当てはまらない/2あまり当てはまらない/3ある程度当てはまる/4よく当てはまる/5わからない・判断できない
表側:業績との関連性が見えづらいから/効果測定が難しいから/多様性を推進する人に依存した施策を実施しているから/すでに取組み疲れが見えるから/従業員や経営陣に無理解な人が多いから/法令さえ遵守していればよいという考えが会社・組織にあるから/社会や政治動向が逆風もしくは無風だから/従業員や経営陣は同質性を求める人が多いから
問:以下の各要素について、多様性推進や少数者の機会均等・差別是正の取組み状況を教えてください。(MTX-SA)
表頭(選択肢):1具体的な施策がすでにあり、推進され、明確な成果が出ている/2具体的な施策がすでにあり、推進されているが、明確な成果は出ていない/3推進の方向性にあるが、具体的な施策はない/4推進の方向性にない/5知らない・わからない
表側:男女の格差や違い/性的指向や性自認(LGBTQ)/年齢・年代/職種/国籍/過去の職務経験/性格/保有する能力・スキル
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