タレントインテリジェンス総研調査レポートREPORT
応募者を惹きつける採用面接①:面接官の振る舞いはどう伝わる?|神戸大学客員准教授 岩本氏に聞く

要約
労働力人口の減少・採用難が加速する現代において、面接官の意識を「見極め」から「惹きつけ」へ転換させることは不可欠です。なぜなら、応募者は面接官を企業の縮図として受け取るため、面接官の態度や言動が選考の意思決定に直結するからです。応募者を主体的な入社意思決定へ導くには、社会心理学の「自己決定理論」における3つの基本的心理欲求(関係性・有能性・自律性)を満たし、それらを阻害する言動を排除することが重要です。
しかし、AIを用いた非言語・発話データ分析からは、良かれと思った対応が無意識のうちに応募者の欲求を阻害しているという、面接官自身の認識と客観的態度のギャップが見えてきました。
本記事を読むことで、面接官が陥りがちな無意識の落とし穴を理解し、前向きな行動変容を促すための第一歩を学ぶことができます。
目次
- 概要
- プロフィール
- 「見極め」から「惹きつけ」へ:採用活動を勝ち抜くための面接官の視点転換
- 応募者は面接官を「企業の縮図」として見ている
- 応募者を惹きつけるには「3つの基本的心理欲求」の充足と阻害しないことが大切
- 面接官の「自己認識」と「実態」に、大きなギャップがある
概要
採用難が強まる現代において、面接は従来の「見極め」だけでなく、同等以上に応募者を「惹きつける」役割が重要になっています。本インタビューは、社会心理学の専門家である岩本慧悟氏(神戸大学客員准教授/ZENKIGEN主任研究員)を取材した全3回シリーズであり、面接における「惹きつけ」をテーマに、理論とデータの両面から採用面接官のあり方を紐解きます。
第1回となる本編では、応募者に選ばれるための理論的アプローチと、データによって判明した面接官の自己認識と客観的態度のギャップを解説します。
プロフィール
岩本 慧悟(いわもと けいご)氏
神戸大学大学院経営学研究科 エントリー・マネジメント研究教育センター
客員准教授/株式会社ZENKIGEN 主任研究員
略歴:
ディップ株式会社でデータアナリストを経て、パーソル総合研究所、カオナビHRテクノロジー総研の研究員を歴任。
現在は、採用DXサービス「harutaka」を提供するZENKIGENの主任研究員、採用・オンボーディングを研究する神戸大学大学院経営学研究科エントリー・マネジメント研究教育センターの客員准教授。
専門:
社会心理学、産業・組織心理学、組織行動論
主な著書:
『実践ピープルアナリティクス 人材と組織を理解するための道具箱』(共著)、『日本的ジョブ型雇用』(分担執筆)、『未来思考の心理学』(分担翻訳)ほか
※本インタビューの研究成果は、ZENKIGENと神戸大学との共同研究に基づくものです。
「見極め」から「惹きつけ」へ:採用活動を勝ち抜くための面接官の視点転換
ーーまずは、採用面接での「惹きつけ」が何かをお伺いする前に、企業の採用状況からお伺いできますか。
新卒採用を例にあげると、約6割の企業が採用目標を達成できていない状況にあります。労働人口が減少する中で、応募者優位の売り手市場が強くなっていることが大きいです。そのため、かつてのように応募者を「見極める」だけでなく、応募者を自社に「惹きつける」役割が、面接官にとって重要になってきています。しかし一方で、面接官の多くは『面接は見極める場だ』という構えが非常に強いため、このギャップが課題となっています。
ーー現場の面接官には、自社の採用の厳しさを十分に共有されていないのでしょうか。
そうなんです。世の中で採用が大変だと言われていることは何となく知っていても、自社のリアルな採用状況を現場の面接官はほとんど知りません。どれだけ応募があり、どれだけ内定を出し、どれほど辞退されているかといった数値が見えていないことが多いのです。そこで、『実は、うちの会社はこれほど辞退されている。だから面接で惹きつけを頑張らないといけないんだよ。』とフィードバックします。すると、『そうだったのか。それなら惹きつけも頑張らなきゃいけないね。』と納得して行動を変えてくれるケースが実際に多くあります。まずは、現場の面接官の”視点転換”を促すことが何より大切です。
応募者は面接官を「企業の縮図」として見ている
ーー企業が応募者に選ばれるか否かにおいて、そもそも採用面接がなぜ重要なのでしょうか。
採用面接から得られる情報が、応募者にとって圧倒的に多いからです。Web上の公開情報だけでは分からない、どのような人たちとどのような環境で働くのか、という情報を得る機会として、採用面接が機能しています。実際の対話の中で、面接官の発言内容だけでなく、面接の時間を一緒に過ごしてどう感じたかという感覚の部分が非常に重要です。例えば、面接官が直接一緒に働く人ではなかったとしても、応募者はその面接官を”企業のパーソナリティ”として捉えてしまいます。

ーー面接官個人の印象が、そのまま会社の印象として変換されてしまうのですね。
学術的には、「シグナリング理論」というものがあります。面接の中で得られるあらゆる態度や発言を、応募者は”この会社で働く上での強力なシグナル”として、素朴に受け取って一般化してしまう性質があると言われています。だからこそ、面接官が応募者に与える影響は極めて重要なのです。
ーー応募者にとって、面接官から受ける印象も無意識の部分が大きいのでしょうか。
そうですね。応募者が『この会社じゃないな』と感じたとき、その理由が『面接官の態度だった』と自分自身で明確に意識して結びつけられていないケースも多々あります。知らず知らずのうちに影響を受けているというのが、人とのコミュニケーションの特徴です。
応募者を惹きつけるには「3つの基本的心理欲求」の充足と阻害しないことが大切
ーー応募者が『ここで働きたい』と前向きに決断できるようにするために、面接官がベースとして持つべき考え方や理論はありますか?
前向きに『ここで働くぞ』と主体的に納得して決定を下す上で、推奨したい理論があります。それが、社会心理学における「自己決定理論」です。人が前向きで主体的な状態になるためには、人間が持つ「3つの基本的心理欲求」が満たされること、そして阻害されないことが不可欠であるとされています。
ーー3つの基本的心理欲求は、具体的にどういったものですか。
1つ目は関係性の欲求です。これは他人と繋がっていたい、この組織に受け入れられたいという欲求です。面接中に冗談を言って一緒に笑う、丁寧で大きな相槌を打つといった温かい対話によって満たされます。
2つ目は有能性の欲求です。自分はこの会社で活躍し、成長していけそうだという感覚です。応募者の自己アピールに対し、『その分析力はまさに当社の業務でこのように活かせますよ、活躍イメージが湧きますね』と、応募者の強みを実際の現場に結びつけて返すことで強力に満たされます。一方で、応募者の話を十分に受け止めないまま事務的に進めてしまうと、「自分の強みを理解してもらえなかった」と感じられることがあります。例えば、応募者の回答に対して、『分かりました。では次の質問です』と淡々と進めてしまうようなコミュニケーションです。
3つ目は自律性の欲求です。他人に強制されるのではなく、自らの意志や価値観に沿って選択できているという感覚です。例えば面接の最後で、『内定を出したら他社の選考をすべて辞退しますか?』と迫ったとします。これは、応募者の自由を強烈に制約するため、反発や抵抗を引き起こし逆効果になります。
面接官は、これら3つの基本的心理欲求を満たすことを意識するだけでなく、それ以上に相手の基本的心理欲求を不必要に阻害している、マイナスの言動を徹底的に排除していくことが非常に効果的です。面接の初期段階からすべてを満たそうとすると負荷が高いため、まずはやっていけない言動を振り返る基準として、3つの基本的心理欲求を意識していただくのがお勧めです。
表1:面接における「3つの基本的心理欲求」一覧表
| 基本的心理欲求 | 欲求の定義(応募者の感覚) | 満たす言動(プラス行動) | 阻害する言動(マイナス・NG行動) |
|---|---|---|---|
| ① 関係性の欲求 | 他人と繋がっていたい 組織に受け入れられたい |
・冗談を言って一緒に笑う ・丁寧で大きな相槌を打つ(温かい対話) |
・冷淡、無表情な応対 ・相手を拒絶するような素っ気ない態度 |
| ② 有能性の欲求 | この会社で活躍し成長していけそうだ |
・応募者の強みを現場業務と結びつけて返す (例:「その分析力は当社の業務でこのように活かせますね」) |
・応募者の経験や能力を軽視・否定するような応対をする |
| ③ 自律性の欲求 | 強制されず、自分の意志や価値観で選択できている | ・応募者の選択権や考えを尊重した対話を行う | ・「内定を出したら他社をすべて辞退しますか?」と迫る |
面接官の「自己認識」と「実態」に、大きなギャップがある
ーー理論を踏まえた上で、面接現場のリアルな実態を明らかにするために、神戸大学とZENKIGEN社にて共同研究をされているのですよね。
はい。例えば、最近発表したものだと、面接の録画データや、その後の選考辞退・内定承諾データを用いて、どのようなコミュニケーションが内定の前向きな承諾、あるいは辞退につながるのかを分析しています。面接官の発言内容だけでなく、笑顔の度合いや頷きのパターン、発話比率のバランスといった非言語的なデータもAIを用いて抽出し、実際の選考結果と突き合わせています。
ーー客観的にデータ化されると、面接官本人も気づいていなかった無意識の態度や言動が見えてきそうですね。実際、ご自身の認識と実態にギャップを感じる面接官は多いのでしょうか。
そうですね。実際に記録した面接動画を面接官本人と一緒に見直すインタビューを行うと、多くの面接官が『えっ、私はこんなに怖い、怒っているかのような顔をして応募者の話を聞いていたのですか?』と自身の面接時の表情に驚愕しています。
また、面接官が『応募者のエピソードを深掘りしたい』と思って頭をフル回転させながら質問していても、頭を使いすぎているために言葉がまわりくどく不自然になってしまい、応募者に質問意図が全く伝わっていないケースも多発しています。面接官は『応募者の受け答えが要領を得ないな』と低く評価していましたが、実際の動画を見直すと、面接官側の質問の仕方が非常に分かりにくかったことが原因だったと本人が気づくケースも多いです。
さらに、自身の成功体験ばかりを話し続けている面接官も統計的に多く検出されます。特に役職が高くなるほどこの傾向が顕著です。面接官本人は、会社の魅力を熱心に伝えて惹きつけたつもりであっても、応募者は『自分の存在や有能性を全く見てくれなかった、理解してくれなかった』と感じ、辞退してしまう原因になります。
ーーそういったギャップは、面接官自身で気づくことは難しいのでしょうか。
面接官は基本的に他者から客観的なフィードバックを受ける機会がありません。自分のコミュニケーションがどうだったのかを知る術がないため、無意識のうちに記憶が再構成され、面接が終了した直後のインタビューでも、実際には話さなかった架空のストーリーを都合よく脳内で補完して報告するケースもあります。
ーー自分の記憶すら都合よく書き換わってしまうというのは、恐ろしいですね。自力で気づくのが難しいとすると、面接官はどうやってその無意識の歪みから脱却すればよいのでしょうか。
だからこそ、自らの”主観や思い込み”に頼るのをやめ、録画や客観的なデータを用いて振り返る機会を持つことが極めて重要です。
面接官は決して悪意があって威圧的になっているわけではなく、ただ自社の辞退の現実や自分の実際の表情を知らないだけなのです。人事が実態データをフィードバックしたり、客観的な振り返りのきっかけを提供するだけで、面接官は『そうだったのか、それならもっと惹きつけを意識してみよう』『次はこうしてみよう』と驚くほど前向きに変容していきます。
まずは、自らの面接を客観的に見つめ直すことが、すべてのスタートラインになります。
第2回【行動編】では、3つの基本的心理欲求を満たすために、明日からすぐに実践できる様々なアプローチ方法を解説します。
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