カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
リモートワークに価値はあるのか?
~リモートワーク実態調査レポート3~
サーベイの背景
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレワーク、在宅勤務、リモートワーク等の「出社をしない」働き方(以降、すべての働き方を含めて「リモートワーク」とします)を始めた方も多いのではないでしょうか。HRテクノロジー総研では、リモートワーク実態調査を実施しました。リモートワークを実際にしている人の声から、リモートワークの「今」と「未来」を見ていきたいと思います。今回は「リモートワークの未来」に焦点を当て、またこれまでのリモートワーク実態調査を振り返ります。
サーベイの内容
今回は以下の要領にてインターネットを用いたサーベイを実施致しました
- サーベイ対象:20代~60代の自由業を除く、かつ従業員数10名以上の会社に勤めている「毎日リモートワーク」もしくは「週に2~3日出社し、その他はリモートワーク」をしている人 300名
- サーベイ期間:2020年5月1日(金)~2020年5月7日(木)
- サーベイ内容:Web上でリモートワークについての質問項目に、選択・記述式で回答
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(レポート中にとりあげている2群の差異[図2および図3]はt検定で有意を検出したものです。また回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません)
調査結果① 半数以上の人が、リモートワークを「続けたい」
リモートワークの今後の継続希望を聞きました。
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Q. 在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方を、今後も続けていきたいと思いますか。
「続けたい(28.7%)」「やや続けたい(23.0%)」を合わせて「続けたい派」は51.7%となり、半数以上の人がリモートワークの継続を希望しています。翻って「やや続けたくない(6.0%)」「続けたくない(10.0%)」で「続けたくない派」は16.0%です。
このように多くの人がリモートワークの継続を望んではいるものの、回答者の属性によって継続希望の度合いに若干の違いがあります。
調査結果② リモートワークの継続希望は、上司と部下でギャップあり
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Q. 在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方を、今後も続けていきたいと思いますか。
前回の調査レポート「リモートワーカーは何を感じている? ~リモートワーク実態調査レポート2~」でも、リモートワークの「働きやすさ」「生産性」についての評価は、マネージャーが相対的に低い傾向がありました。継続希望についても同様の傾向があり、マネージャーの5人に一人は「続けたくない派」です。
部下の有無以外には、性別でも有意な差異が認められました。
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Q. 在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方を、今後も続けていきたいと思いますか。
しかしながら、その他の「年代」や「子供の有無」については、それほどの差異が認められない、もしくは有意な差異が認められませんでした。この点から言えることは、リモートワークの希望は「思い込みに気を付けて」ということでしょうか。「ワーキングマザーだから、在宅勤務の方がいいだろう」「ベテラン社員の方だから、対面での会議を好むだろう」「働き盛りの独身男性だから、出社も厭わないだろう」など、時には善意から、時には無意識に思い込んで、意思決定をしていたりしないでしょうか?リモートワークに限ったことではないですが、それほど単純な推論は成立しないようです。
また、今回の新型コロナウイルス感染症拡大対策下においては、保育園の休園や学校の休校などが重なったことや、急ごしらえでリモートワーク環境に移行した人が多かったことで、通常とは異なる条件のもとリモートワークの評価を下している点には注意が必要です。家庭の状況(パートナーの忙しさや、子育てを支援してくれる人が周囲にいるか等)や住環境といった個別事情が、通常時以上に評価に影響していると推測されます。ただ同時に、今回のイレギュラーなリモートワークと比較して、通常時のリモートワークの評価が高いということはあっても、低いということはあまりないかとも思われます。
調査結果③ リモートワーク継続の懸念点は「人材育成」「業務進捗スピード」「成果維持・創出」
前回の調査レポートの結果から、リモートワークは多くの人が「働きやすい」と評価していることが分かりました。そして上記の通り、半数をこえる人が「継続したい」と希望をしています。それならば、リモートワークをどんどん推進し、それを通常の状態としてもよいのでしょうか?「リモートワークが継続することになった場合の、組織としての懸念」も、今回の調査では聞いています。
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Q.今後、在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方を継続することになった場合の、組織としての懸念はありますか。(いくつでも)
※「特になし」「その他」の回答を除く
上位3つは「人材育成が難しくなる(39.0%)」「業務の進捗が遅くなる(32.0%)」「売上や達成率等の成果を維持しづらくなる(28.3%)」となり、次点の「組織文化や風土の醸成が難しくなる」から10ポイント以上離れています。これらは、リモートワーカーの主観的な懸念を聞いた結果のため、上位だから重要な組織課題である、とは必ずしも言えません。とはいえ、この上位の懸念については従業員が当事者意識を持っているということも言えますし、これらの組織課題が残り続ければ、従業員の不安や不満も生まれやすいと言えるかもしれません。
前回の調査レポートでは、リモートワーク下では多くの人が「生産性が落ちた」「社内コミュニケーションが減った」と感じているという結果も紹介しました。こういった状況が続いてしまうと、組織として「人材育成」「業務進捗スピード」「成果維持・創出」に課題が生まれてくる、と推測しているのでしょうか。またこれらはすべて「マネジメント上の課題」と表現することもできますが、マネージャーはそのプレッシャーを感じて、リモートワークを厳しく評価しているのかもしれません。
調査結果④ リモートワーカーのニーズは「オンラインweb会議ツールは必須。できればITツールは整備してほしい」
多くの課題も存在するリモートワークですが、リモートワークをする上で、役に立った、もしくは役に立ちそうだとリモートワーカーが感じている施策が以下の通りです。
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Q.在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方をする上で、役に立った、もしくは役に立ちそうと思う施策を以下から選択してください。(いくつでも)
※「その他」の回答を除く
「オンライン会議ツールの導入・活用(40.0%)」は圧倒的に票が集まっており、もはやリモートワークには欠かせないツールであることが見受けられます。
そして次点は「特になし(24.7%)」となっています。少々意外な結果ではありますが、そもそも選択肢に挙げたITツールが利用できなかった時代には、携帯電話やノートパソコンなどの最低限の機器でリモートワークをしていた人もいたはずです。リモートワークを可能とする条件は、本質的にはツールの整備ではなく、マネジメントやそれに付随するルール、コミュニケーションの在り方などに潜む「こうするべきだ」「こうするものだ」という常識を、問い直すことなのかもしれません。
とはいえ、3位「ワークフローツールの導入・活用」から6位「タレントマネジメントツールの導入・活用」までは、いわゆる「業務アプリケーションツールの導入・活用」が混戦状態です。業務進捗スピードや成果を維持するため、まずは出社していた時の業務遂行を再現できるようツールを整備してほしいというニーズが同時にありそうです。
リモートワーク実態調査を通して ~リモートワークは価値があるのか~
リモートワーク実態調査は前々回、前回とあわせて3回に渡り、レポートを掲載してきました。様々な角度からリモートワークの実態を見てきましたが、明らかになったポイントを5つにまとめます。
- リモートワーク実施率(レポート1から)
- リモートワーカーは全国的には少数派で、首都圏/IT業界/ホワイトカラー/大企業に多い
- リモートワークの評価(レポート2および3から)
- 多くの人のリモートワークをしてみた実感は「働きやすいが、生産性が落ちる」
- 多くの人がリモートワークは「継続したい」
- リモートワークのメリットとデメリット(レポート2から)
- リモートワークの代表的なメリットは「時間や心身のゆとり」、デメリットは「セルフマネジメントの難しさ」
- 「社内コミュニケーションの減少」をメリットと捉えるか、デメリットと捉えるかは人による
- リモートワークの課題(レポート2および3から)
- リモートワークは生産性が落ち、コミュニケーションも取りにくいため、部下を持つマネージャーにとっては難しい「マネジメント上の課題」である
- 長期的には「人材育成」「業務進捗スピード」「成果維持・創出」という課題を、リモートワーカーは懸念している
- リモートワークに必要な施策(レポート3から)
- オンライン会議ツールの導入は、リモートワークではもはや必須である
- 業務アプリケーションツールも、最低限整備されている必要があると推測される
- 配信:2020/5/1
- サンプル回収数:300サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳~69歳
性別:男女
配信地域:全国
対象条件:有業者(自由業を除く)のうち、従業員数10名以上の会社に勤める人のうち、現在「基本的に毎日、オフィスに出社して働いている」「週に2~3回程度オフィスに出社し、それ以外は出社せずに在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等で働いている」のどちらかを選択した人 - 本サイト記事の引用・転載の際は、必ず「出典:カオナビHRテクノロジー総研」と明記してください
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リモートワークは、今後取り組むべき価値があるのでしょうか?
企業にとって、新型コロナウイルスのような不測の事態においても「事業継続ができる」というのは、リモートワークのシンプルな価値の一つです。米大手HCMベンダーのADP社の実施した、アメリカの中小規模の事業者1,000社を対象とした調査によると、小規模事業者で52%、中規模事業者で43%が、新型コロナウイルスの影響で休業もしくは営業時間の短縮を余儀なくされました。リモートワークが難しい業種・職種は当然ありますが、可能な範囲でリモートワークを整備することは、自然災害や事故なども含めた様々なリスクに対しての対応策となります。
リモートワークのコスト削減メリットはどうでしょうか。ニュースでもオフィス撤退・縮小の動きが取り上げられており、目にした人も多いかと思います。オフィス撤退・縮小の意思決定がなされれば、当然大幅な固定費の削減が期待できます。ただし、今回の調査からも分かる通り、オンライン会議ツールを始めとしたITツールの整備が一定程度は必要となるため、相殺されてしまう部分もあるでしょう。
今回の調査で見てきた通り、リモートワークは働く人にとって利点も多く、継続の希望者も多くなっています。この度の新型コロナウイルス感染拡大下においてですら、リモートワークを経験した人は全国的には少数派ではありますが、それでも「リモートワークは良いものだ」という実感をした人が、以前と比較すれば格段に増えた時期だったといえるでしょう。今後「リモートワークが可能である」という条件が、特にリモートワーク実施率の高かった「首都圏」「IT業界」「ホワイトカラー」「大企業」といったカテゴリ内では、採用候補者や従業員にとっての大きな魅力に映るようになるでしょう。また企業にとっても、リモートワークができるのであれば、物理的な距離を気にせず従業員が採用できるため、採用競争力の強化につながります。
「リモートワーク下でのマネジメントをどうすべきか」というチャレンジングな課題はありますが、従業員の採用やエンゲージメント向上、離職防止の文脈でも、企業にとってリモートワークは、積極的に取り組む必要も、そして価値のあるものだと言えそうです。
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
<設問と回答選択肢>
問:在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方を、今後も続けていきたいと思いますか。
選択肢:続けたい/やや続けたい/どちらともいえない/やや続けたくない/続けたくない
問:今後、在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方を継続することになった場合の、組織としての懸念はありますか。(いくつでも)
選択肢:業務の進捗が遅くなる/創造的なアイディアやイノベーションが生まれなくなる/売上や達成率等の成果を維持しづらくなる/組織文化や風土の醸成が難しくなる/人材育成が難しくなる/システムやITツールの整備に時間がかかる、困難がある/その他(自由記述)/特になし
問:在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない」働き方をする上で、役に立った、もしくは役に立ちそうと思う施策を以下から選択してください。(いくつでも)
選択肢:役割、実施業務、スキル等のメンバーごとに紐づく情報の共有ツールの導入・活用(※1)/職場のルールや規程の共有ツールの導入・活用/ノウハウや経験知識の共有ツールの導入・活用/申請・承認・決済などの業務の流れを再現できるワークフローツールの導入・活用(※2)/オンライン会議ツールの導入・活用/ビジネスチャットツール、社内SNSの導入・活用/PC、モバイルWi-Fi等のIT機器の貸し出しや購入のための補助/椅子や机等の設備の貸し出しや購入のための補助/フレックス制等の勤務時間の柔軟性が持てる制度の導入・活用/その他(自由記述)/特になし
※1 記事内では「タレントマネジメントツールの導入・活用」と表現
※2 記事内では「ワークフローツールの導入・活用」と表現
<結果の集計における備考>
上記のうち5スケールで回答する設問については、「どちらでもない」を除いた4つの選択肢を肯定的と否定的な回答に2項目ずつまとめたうえで図表化、もしくは差異を比較している。
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