カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT

2021.03.03
調査

緊急事態宣言発令の影響は?
~2021年1月 リモートワーク実態調査<後編>~
*調査データ公開

サーベイの背景

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレワーク、在宅勤務、リモートワーク等の「出社をしない」働き方(以降、すべての働き方を含めて「リモートワーク」とします)を始めた方も多いのではないでしょうか。2021年1月8日には、1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)に緊急事態宣言が発令され、1月14日には大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木にも対象が拡大されました。2月8日に栃木が、3月1日には1都3県を除く地域は解除となりましたが、1都3県では2021年3月7日までの実施が予定されています。
今回の緊急事態宣言をめぐって、政府は「出勤者の7割削減を目指す」という考えも表明していましたが、リモートワークの現状はどのようになっているのでしょうか。カオナビHRテクノロジー総研では2021年1月下旬に調査を実施しました。2020年5月および8月に実施したリモートワーク実態調査の結果とも比較しながら、リモートワークの今を考察します。今回は<後編>となります。また、2020年5月からこれまでのリモートワーク実態調査のデータをExcelファイルでダウンロード可能な形で、記事の末尾に公開しておりますので、ぜひご活用ください。

サーベイの概要

今回は以下の要領にてインターネットを用いたサーベイを実施致しました

  • サーベイ対象:20代~60代の自由業・社長職を除く有業者 8,716名
  • サーベイ期間:2021年1月26日(火)~2021年1月28日(木)
  • サーベイ内容:Web上でリモートワークについての質問項目に、選択・記述式で回答
  • 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)

<前編>の調査結果のまとめ ~緊急事態宣言発令の影響は?~

<前編>で明らかになった調査結果は、以下の通りです。

  • 調査結果① 一都三県の緊急事態宣言発令後のリモートワーク実施率は、全体で24.6%
  • 調査結果② 一都三県の緊急事態宣言発令前(2020年12月)のリモートワーク実施率は、全体で20.4%
  • 調査結果③ 2020年5月以降リモートワーク実施率は減少傾向にあったが、一都三県の緊急事態宣言発令を機に微増
  • 調査結果④ 勤務地域別では、引き続き首都圏のリモートワーク実施率が40.2%と顕著に高い
  • 調査結果⑤ 緊急事態宣言下の11都府県は、他地域と比較してリモートワーク実施率が高い
  • 調査結果⑥ 緊急事態宣言前後で、リモートワーク実施率は宣言下の地域で5.7ポイント、その他地域で1.3ポイントの上昇
  • 調査結果⑦ 緊急事態宣言下の都市圏、その中でも東京都のリモートワーク実施率が50.4%と顕著に高い

今回の<後編>は、会社規模、職種、業種別に一都三県の緊急事態宣言発令前後のリモートワーク実施率についての調査結果を見ていきます。
 

調査結果⑧ 会社規模別では、従業員数が多い会社ほど、リモートワーク実施率が高い傾向に

まずは会社規模別の傾向です。2021年1月8日以降(図1)と2020年12月(図2)を並べています。


会社規模は大きいほど、リモートワーク実施率が高く、これは前回8月前々回5月調査と同様の傾向です。2020年12月から2021年1月8日以降のリモートワーク実施率の増加幅については、「500~999人」の6.8ポイントが最大です。次点は「5,000人以上」で6.4ポイント、「1,000~2,999人」で5.8ポイントとなりました。

調査結果⑨ 職種別では、「営業職」「事務系管理職」「事務職・技術系事務職」がリモートワーク実施率上位に

続いて職種別の傾向です。まずは2021年1月8日以降のリモートワーク実施率のグラフです。

2021年1月8日以降のリモートワーク実施率の上位は「営業職(45.5%)」「事務系管理職(44.7%)」「事務職・技術系事務職(37.2%)」となりました。前回8月前々回5月調査時も上位の3職種で、いわゆるホワイトカラーが上位にくることが分かります。

調査結果⑩ ホワイトカラー3職種のリモートワーク実施率は39.5%。緊急事態宣言下の地域ではさらに高く、48.5%

上記ホワイトカラー3職種は、現場従業者が含まれる他職種と比べると、リモートワークが比較的容易と思われます。また、今回の調査は8,716名の回答者を得ていますが、4,231名と半数近くの回答者が、この3職種に就いています。これらのことから、出勤者削減のカギとなる3職種である、と言えるでしょう。
この3職種に絞ると、2021年1月8日以降のリモートワーク実施率は39.5%となりました。


緊急事態宣言下の地域とそれ以外の地域でも、この3職種のリモートワーク実施率に差があります。

緊急事態宣言下の地域のホワイトカラー3職種は「毎日リモートワーク」が15.4%、「出社とリモートワークを併用」が33.1%となり、合わせてリモートワーク実施率は48.5%で、過半に迫る勢いです。それでも49.4%は「毎日出社」をしており、ここからも出勤者削減の道のりはなかなか厳しいと理解されます。

調査結果⑪ 緊急事態宣言発令後の増加幅も、ホワイトカラー3職種は上位。「公務員」も増加幅では上位に

続いて職種別の、2020年12月のリモートワーク実施率のグラフです。

2020年12月時点でも、ホワイトカラー3職種が上位です。2020年12月から2021年1月8日以降にかけての増加幅も、営業職が8.5ポイント、事務系管理職が9.2ポイント、事務職・技術系事務職が6.1ポイントと上位になっています。
また増加幅については「公務員」も大きく、7.6ポイントです。公務員は2020年12月時点でリモートワーク実施率が9.5%と比較的低調でしたが、2021年1月8日以降には17.1%となりました。

調査結果⑫ 緊急事態宣言下の地域の公務員は、「分散出社」を試行中

今回の緊急事態宣言を受けて、河野規制改革担当大臣がテレワーク推進および1都3県での出勤者7割削減を、すべての府省庁に要請しました。公務員については、明らかにリモートワークは推進基調といえるでしょう。特に緊急事態宣言下の地域では、リモートワーク実施率の増加幅が顕著です。

「毎日リモートワーク」はそもそも実施率が低いですが、2020年12月から2021年1月8日以降にかけて、緊急事態宣言下の地域では減少すらしています。しかしながら「出社とリモートワークを併用」の割合が、8.5%から22.9%に上昇し、増加幅は14.3ポイントです。公務員は、窓口業務など出勤が不可欠な業務があることに加え、IT環境整備の遅れを指摘されることもありますが、緊急事態宣言下の地域では少なくとも「分散出社」が模索されていることが見受けられます。

調査結果⑬ 業種別では「IT・インターネット」のリモートワーク実施率が64.2%と顕著に高い

最後に業種別の傾向です。2021年1月8日以降(図8)と2020年12月(図9)を並べています。


「IT・インターネット」は、2021年1月8日以降のリモートワーク実施率が64.2%、2020年12月時点でも58.1%と、顕著に高くなっています。これは、前回8月前々回5月調査時と同様の傾向です。2020年12月から2021年1月8日以降にかけての、リモートワーク実施率の増加幅が大きいのは順に、「マスコミ・広告(8.3ポイント)」「通信・インフラ(7.9ポイント)」「金融(7.5ポイント)」となりました。

 

今回の調査結果のまとめ

今回調査で明らかになった調査結果は<前編>に掲載のものも含め、以下の通りです。

  • 調査結果① 一都三県の緊急事態宣言発令後のリモートワーク実施率は、全体で24.6%
  • 調査結果② 一都三県の緊急事態宣言発令前(2020年12月)のリモートワーク実施率は、全体で20.4%
  • 調査結果③ 2020年5月以降リモートワーク実施率は減少傾向にあったが、一都三県の緊急事態宣言発令を機に微増
  • 調査結果④ 勤務地域別では、引き続き首都圏のリモートワーク実施率が40.2%と顕著に高い
  • 調査結果⑤ 緊急事態宣言下の11都府県は、他地域と比較してリモートワーク実施率が高い
  • 調査結果⑥ 緊急事態宣言前後で、リモートワーク実施率は宣言下の地域で5.7ポイント、その他地域で1.3ポイントの上昇
  • 調査結果⑦ 緊急事態宣言下の都市圏、その中でも東京都のリモートワーク実施率が50.4%と顕著に高い
  • 調査結果⑧ 会社規模別では、従業員数が多い会社ほど、リモートワーク実施率が高い傾向に
  • 調査結果⑨ 職種別では、「営業職」「事務系管理職」「事務職・技術系事務職」がリモートワーク実施率上位に
  • 調査結果⑩ ホワイトカラー3職種のリモートワーク実施率は39.5%。緊急事態宣言下の地域ではさらに高く、48.5%
  • 調査結果⑪ 緊急事態宣言発令後の増加幅も、ホワイトカラー3職種は上位。「公務員」も増加幅では上位に
  • 調査結果⑫ 緊急事態宣言下の地域の公務員は、「分散出社」を試行中
  • 調査結果⑬ 業種別では「IT・インターネット」のリモートワーク実施率が64.2%と顕著に高い

 
2021年1月8日の緊急事態宣言発令後は、2020年5月から減少傾向にあったリモートワーク実施率が全国的には微増に転換し、大きくとは言えないものの発令はリモートワーク促進に影響を与えたようです。2021年1月8日以降のリモートワーク実施率が高いのは、首都圏や都市部/大企業/ホワイトカラー/IT・インターネットと、2020年5月もしくは8月調査時と大きく変わりはありませんでした。リモートワークに比較的取り組みやすいと思われる「ホワイトカラー3職種」では、リモートワーク実施率は39.5%、緊急事態宣言下の地域では48.5%となりました。また業種では「IT・インターネット」が64.2%と、比較的高い水準を維持しています。
また職種では「公務員」が特徴的な傾向を示しました。緊急事態宣言下の地域では、2020年12月から2021年1月8日以降にかけて「出社とリモートワークを併用」の割合が、8.5%から22.9%に上昇しています。緊急事態宣言下の地域では、新型コロナウイルス感染症対応業務も相対的に多いと思われますが、「分散出社」には取り組んでいる様子が見受けられます。

リモートワーク実施率はなぜ伸びない?

一部地域とはいえ、2021年1月8日に緊急事態宣言が発令された上でのリモートワーク実施率は全体で24.6%と、高いとは決して言えない状況です。リモートワーク実施率が伸びない理由は、端的に言うと「リモートワーク制度を導入する企業が少ない」からと言えそうです。今回の調査では「勤めている会社のリモートワーク制度の有無とその利用状況」も聞いています。

  • Q.あなたがお勤めの会社の、在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない働き方」に関する制度の有無とご自身の利用状況を教えてください


確かに「制度はあるが利用していない」という層も1割程度は存在するのですが、58.8%がそもそも「リモートワークの制度がない」と回答する結果となりました。これは、企業を取り巻く法制度も影響していることでしょう。欧州の一部では、すでに労働者の「在宅勤務権」が認められており、ドイツや英国でも政府が検討を開始したと報じられています。日本にはそのような動きは見受けられず、特に中小企業には、大企業のような出勤者削減のプレッシャーはかからないこともあり、制度導入が進んでいないと言われています。
 
決してリモートワークが「正解」という訳ではなく、そもそも実施できない業種・職種もあれば、コミュニケーションの困難さや生産性低下の可能性が指摘されることもあります。実際に、在宅勤務権を検討し始めたといわれるドイツ国内でも「リモートワークによる労働時間の増加」や「仕事と家庭の両立に役立つ一方で、性別役割分担を固定化する傾向がリモートワークにある」という指摘もあります。また、リモートワークできる職種が限定されていることから継続的に実施できる人はいわば”特権”を持っていると指摘されることもあるようです。こうなると、リモートワークは個人や企業の意思決定のみならず、社会的な議論が必要とされる論点と言えそうです。

さいごに ~リモートワーク実態調査のデータを公開~

カオナビHRテクノロジー総研では、2020年5月からリモートワーク実態調査を開始し、2020年8月と今回2021年1月にも調査を実施しています。この間、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、半ば強制的にリモートワークを始めたというのが各社の本音かもしれませんが、リモートワークの恒久化に踏み切るような企業も出始め、「より良い働き方」を考える上で誰もが頭をよぎる選択肢になったとも感じられます。
これまでも記事や分析結果に関するお問い合わせを多く頂戴しておりましたが、この度リモートワークに関するデータを様々な角度から分析・考察してもらうことが、社会への価値提供につながるのではないか、という思いから、これまでの調査データを公開することとしました。
 
<データ内容>
・2020年5月調査
・2020年8月調査
・2021年1月調査
における、その時点(2021年1月調査には、2020年12月時点も含む)の就業場所への出社あるいはリモートワークの状況を、
・勤務地(都道府県)別
・会社規模(従業員数)別
・業種別
・職種別
に、クロス集計したExcelファイルとなります。



Excelファイルをダウンロードする

 
 

【インターネットサーベイ調査概要】

<実施詳細>

  • 配信:2021/01/26
  • サンプル回収数:8,716サンプル
  • 配信・回収条件
    年齢:20歳~69歳
    性別:男女
    配信地域:全国
    対象条件:有業者(自由業・社長職を除く)

 
<設問と回答選択肢(今回調査)>
:2021年1月8日の一都三県における緊急事態宣言発令後の、就業場所への出社状況について教えてください。
選択肢:基本的に毎日、就業場所に出社して働いている(勤務時間の90%以上が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は就業場所に出社し、それ以外は出社せずにリモートワークで働いている(勤務時間の50~89%程度が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社している(勤務時間の10~49%程度が出社で、その他がリモートワーク)/基本的に毎日、リモートワークで働いている(勤務時間の10%未満が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、勤務の際は就業場所に出社している/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、就業場所への出社とリモートワークを併用している/完全に休業している/その他(自由記述)
 
:先月2020年12月の就業場所への出社状況について教えてください。
選択肢:基本的に毎日、就業場所に出社して働いていた(勤務時間の90%以上が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は就業場所に出社し、それ以外は出社せずにリモートワークで働いていた(勤務時間の50~89%程度が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社していた(勤務時間の10~49%程度が出社で、その他がリモートワーク)/基本的に毎日、リモートワークで働いていた(勤務時間の10%未満が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、勤務の際は就業場所に出社していた/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いていた/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、就業場所への出社とリモートワークを併用していた/完全に休業していた/その他(自由記述)
 
:あなたがお勤めの会社の、在宅勤務、テレワーク、リモートワーク等の「出社しない働き方」に関する制度の有無とご自身の利用状況を教えてください。
選択肢:リモートワークの制度はあり、他のメンバーとの調整も全くなく、自身の裁量で利用している/リモートワークの制度はあり、上長等の管理者あるいは所属組織内での調整を実施、もしくは許可を取った上で、利用している/リモートワークの制度はあるが、上長等の管理者あるいは所属組織の方針で利用不可のため、利用していない/リモートワークの制度はあるが、自身が望まないため利用していない/リモートワークの制度はない
 

<結果の集計における備考>
本レポート内の「出社とリモートワークを併用(している)」いう表現は、上記の選択肢のうち
勤務時間の半分以上は就業場所に出社し、それ以外は出社せずにリモートワークで働いている(勤務時間の50~89%程度が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社している(勤務時間の10~49%程度が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、就業場所への出社とリモートワークを併用している が含まれる。
また「毎日出社(している)」には、基本的に毎日、就業場所に出社して働いている(勤務時間の90%以上が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている が含まれ、「毎日リモートワーク」には、基本的に毎日、リモートワークで働いている(勤務時間の10%未満が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている が含まれている。

出 典
NHK NEWS WEB “1都3県 すべての府省庁に出勤者の7割削減を要請 河野大臣”
ITmedia NEWS “公務員のテレワーク進まず 住民との窓口多く対応に苦慮”
日本経済新聞 “在宅勤務が標準に 欧州は法制化の動き、米は企業主導”
独立行政法人労働政策研究・研修機構 “労働者の「在宅勤務権」構想 ―新型コロナウイルスを契機に”

 

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