カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
日本のダイバーシティの針はどちらに振れるのか ―人事1000名の声から読み解く現状と未来予測―

サーベイの背景
企業経営におけるダイバーシティは、1985年に制定された男女雇用機会均等法を端緒とするならば、日本社会においては40年ほど推進の基調が続いていると言ってよいでしょう。1999年には男女共同参画社会基本法、2016年には女性活躍推進法が施行され、直近では一部の企業で、女性活躍推進法による男女の賃金の差異や女性管理職比率の情報公表の義務化、またそれらの有価証券報告書への掲載の義務化など、企業経営におけるダイバーシティ推進は、男女格差の是正が当初の焦点であり、中心的なアジェンダであったといえます。しかしながら現在では、障害の有無、性的志向やジェンダーアイデンティティ、年齢、国籍、場面によってはスキル・能力や職務経験、個人の性格といった広い射程で、多様さの確保を目指すことがダイバーシティ推進と理解されています。直近の国内の法制度の動向からも、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律の成立や、障害のある人への合理的配慮の義務化など、男女格差に限らずダイバーシティ推進がマクロには進められていることが分かります。
一方で、米トランプ政権下において連邦政府のDEI(多様性、公平性、包摂性)施策を廃止する決定をし、米国内ではこの決定に追随してDEI撤退を表明した企業も一部あり、すべての事象が推進基調を示している訳ではありません。
今回は日本企業・組織におけるダイバーシティ推進の現状や今後の方向性について、人事パーソン1,000名にアンケートをとった結果を公表します。
サーベイの概要
今回は以下の要領にてインターネットを用いたサーベイを実施致しました
- サーベイ対象:20歳以上66歳未満の企業の人事・労務担当者1,000名
- サーベイ期間:2025年3月24日(月)~2025年3月26日(水)
- サーベイ内容:Web上でダイバーシティについての質問項目に、選択・記述式で回答
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)
5割超の企業がダイバーシティ推進基調。推進企業のうち3割弱が成果を認識
まずは所属企業・組織におけるダイバーシティの取組み状況について聞いています。

-
Q. あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性に関する取組み状況を教えてください。
(回答者数1,000人)
※図4まで同様
まず「推進しているか」という観点からは、54.5%の回答者が「推進している」と回答しました。一方で26.8%は「推進せず」という回答です。「知らない・わからない」の回答が18.7%ある中でも、「推進している」が過半数となりました。ただし推進していると回答した中には、具体策はないという回答が35.0%(全体の19.1%)、具体策はあるも成果はないという回答が37.2%(全体の20.3%)、具体策もあり成果もあるという回答が27.7%(全体の15.1%)となっており、推進度合にも濃淡があり、成果まで出ているのは全体の15%程度ということも分かります。
ダイバーシティ推進の方向性は、何によって決まるのか
ダイバーシティ推進・非推進に影響しているものは何でしょうか。回答者の所属する企業・組織の属性を元に分析をした結果、最も顕著に差があったのは「従業員規模」となりました。
・大規模<1,000人以上>:362人
・中規模<100~999人>:344人
・小規模<~99人>:294人
図2を見ると、大規模なほど推進基調にあるという回答が増えることが分かります。また推進基調にあるという回答の中でも、具体策がある・成果があるという回答も大規模なほど、増えています。結果的に、従業員数1,000人以上の企業・組織では「推進している」という回答が71.8%となり、推進している企業・組織の3割強(大規模組織全体のうちでは23.8%)が「具体策があり、成果も出ている」と回答しています。
そのほかに勤務地(図3)や業種(図4)の区分でも、取組み状況を見ています。
※以降の図も同様
勤務地では首都圏、近畿、中部・北陸が、全体平均よりも「推進している」の回答合計値が高くなってはいますが、従業員規模の区分ほどの差は見られません。またこれらの地域の推進回答率が高くなる背景として、東京・大阪・名古屋といった大都市圏を含んでおり、大規模な企業・組織の割合が高いということがあると思われます。
業種別の回答結果が図4です。「マスコミ・広告」といった極端に回答者数が少ない業種もありますが、大まかな傾向として通信・インフラ、教育、金融、メーカーといった業種は推進度が高く、その他、サービス、医療・福祉、公共サービスは推進度が低いということが分かります。ただし推進度が低いということが、ダイバーシティが確保されていないということになるかという点は注意が必要で、男女比を例にとるとすれば、もともとバランスがとれていたために現状は推進の基調にはないということも考えられます。
逆に言うと「推進度が高いからダイバーシティが確保されている」とも言えないでしょう。金融業種の男女差を例にとり、以前当総研で公開している「人的資本データベースから見える上場企業の現状と情報開示の現在地」という記事のシリーズから、いくつか現状を見てみましょう。金融・保険業種は「男性の育休取得率」でいうと、全体平均53%のところ、業種平均87%と非常に高い数値となっていますが(男性の育休取得率編の表2から)、女性管理職比率は16%と全体平均の12%と比べ大きくは変わらず(女性管理職比率編の表2から)、全労働者の男女の賃金の差異は64%と全体平均68%より小さい、つまり男女の賃金の差異が大きくなっています(男女の賃金の差異編の表4から)。
この記事のシリーズは有価証券報告書上でこれらの数字を公表している企業に限定された結果であり、指標も限定されているといった限界もありますが、推進度が高い業種があらゆる観点からダイバーシティが高く確保されている訳ではないということは理解できます。そして同じことは、従業員規模や勤務地別の分析でも言えることですが、とはいえ推進度が高いカテゴリは、ダイバーシティの課題認識があり、改善活動をしている・しようとしている企業や組織が多いということは言えるかと思います。
今後のダイバーシティの方向性の見立ては?
ここまでは現在の取組み状況の結果を紹介しましたが、今後3年程度の間に方向性は変わりそうかということも聞いています。冒頭で触れた通り、米国では一部企業でダイバーシティの揺り戻しも起きています。そのような兆候は日本企業・組織にあるのでしょうか。

-
Q. 今後3年程度で、あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性の方向性はどのようになると想像しますか。(回答者数1,000人)
今後3年程度でダイバーシティは推進されると思うか、あるいは現状維持や後退と思うかを人事パーソンに聞いた結果が図5です。予測の設問のため「わからない・想像がつかない」という回答が23.7%と多くある中で、も推進計(強く推進+ある程度推進)が35.0%、現状維持が33.6%とそれぞれ3割程度となっています。後退計(強く後退+やや後退)は7.7%と大きな数値ではなく、揺り戻しが社会的に起きているとまでは言えないですが、少数とはいえ「後退が起こる」と考える人事パーソンは、どのような理由からそのような見立てをしているのか、着目したいポイントです。
後編では、今後3年で推進、あるいは後退すると考える理由、また多様性の取組み対象についての結果をご紹介します。
前編のまとめ
前編では、日本企業・組織におけるダイバーシティ推進の現状と、その方向性を左右する要因について概観しました。
回答者の過半数である54.5%が「推進している」と回答しており、ダイバーシティ推進は依然として前向きな基調にあると言えます。しかしその内訳を見ると、具体策の有無や成果の有無によって濃淡があり、成果を認識している企業は全体の15%程度にとどまっています。また、推進度を分ける最も大きな要因として、従業員規模が挙げられ、規模が大きい企業ほど推進度が高い傾向が見られました。
今後3年の見立てについては、「推進」と「現状維持」がいずれも3割強を占める一方、「後退」と回答した層は7.7%にとどまり、現時点で社会的に大きな揺り戻しが進んでいるとは言えない結果となりました。ただし、少数とはいえ後退を予測する回答が存在することは、組織がダイバーシティに直面する課題や不安、社会情勢の影響といった要素を考察する上で、重要な示唆を含むものと考えられます。
後編では、今後「推進」あるいは「後退」すると見立てる理由や、企業・組織がどの領域の多様性を重視しているのかといった具体的な内容を掘り下げていきます。
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
- 配信:2025/3/24
- サンプル回収数:1,000サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳以上66歳未満
性別:男女
配信地域:全国
対象条件:企業の人事・労務担当者
<設問と回答選択肢(今回調査)>
問:お勤めの会社の業種はどれですか。(SA)
選択肢:メーカー/流通/小売・外食/金融/通信・インフラ/マスコミ・広告/IT・インターネット/サービス/医療・福祉/教育/公共サービス/その他
問:お勤めの会社の規模はどの程度ですか。従業員数をお答えください。(SA)
選択肢:10人未満/10~49人/50~99人/100~499人/500~999人/1,000~2,999人/3,000~4,999人/5,000人以上
問:勤務している職場の所在地はどこですか。(SA)
選択肢:北海道/青森県/岩手県/宮城県/秋田県/山形県/福島県/茨城県/栃木県/群馬県/埼玉県/千葉県/東京都/神奈川県/新潟県/富山県/石川県/福井県/山梨県/長野県/岐阜県/静岡県/愛知県/三重県/滋賀県/京都府/大阪府/兵庫県/奈良県/和歌山県/鳥取県/島根県/岡山県/広島県/山口県/徳島県/香川県/愛媛県/高知県/福岡県/佐賀県/長崎県/熊本県/大分県/宮崎県/鹿児島県/沖縄県
問:あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性に関する取組み状況を教えてください。(SA)
選択肢:具体的な施策がすでにあり、推進され、明確な成果が出ている/具体的な施策がすでにあり、推進されているが、明確な成果は出ていない/推進の方向性にあるが、具体的な施策はない/推進の方向性にない/知らない・わからない
問:今後3年程度で、あなたの所属する会社・組織のダイバーシティ・多様性の方向性はどのようになると想像しますか。(SA)
選択肢:強く推進される/ある程度推進される/現状維持/やや後退する/強く後退する/わからない・想像がつかない
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