カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
リモートワーク、実際のところ何で困る? ~カギは「会社固有」の情報~
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、リモートワークに移行した方も多いのではないでしょうか。普段、オフィスに出勤し、顔を合わせて話しながら進めていた業務も、オンライン上のコミュニケーションで完結せざるを得なくなったという方もいらっしゃるかもしれません。当たり前のことですが、私たちは日頃、自分の知らない情報を会社内の誰かに聞く、もしくは自分が知っている情報を会社内の誰かに教えながら、業務を遂行しています。この「業務遂行における情報のやりとり」について、リモートワーク環境における最適解は何かを、本記事では探っていきたいと思います。
つまずきがちなのは「会社固有の情報」
会社内でやりとりされる情報には、例えば会計の専門知識やプログラミングのスキルというような、どの会社でも通用する汎用的な情報と、会社内の制度上の決まり事や暗黙の了解といった、会社固有の情報があります。厳密にいえば、汎用vs会社固有という二項対立ではないですが、どちらの色彩が強いかは判別できるでしょう。
専門知識やスキルについての汎用的な情報は、例えば研修が提供されるなど、意図的な伝達の機会があります。またこれらの情報は、インターネットで検索すれば、全容にたどり着けなかったとしても、ヒントは見つけられるでしょう。さらに、これらの情報を獲得し、出来ることが増える過程は、すなわち「学習」であり、結果として市場価値が高められたりもするため、社外にある情報への自発的なアクセスを促すこともできそうです。
しかしながら、会社固有の情報はそういう訳にはいきません。「この作業はこの人にまず依頼する」といったことは、インターネットで検索してどうにかなるものでもないでしょう。普段オフィスで顔を合わせて働いている際には、口頭でコミュニケーションをとることで自然とこういった情報にアクセスし、業務を遂行できています。しかしリモートワークとなると、そのコミュニケーションが取りづらくなり、円滑な業務遂行が阻害されることが増えてしまいます。
この「会社固有の情報」へのアクセスについては、そもそも普段の「オフィスに出勤する」働き方の時から、一部では問題となっています。それは、新たに採用された社員が会社になじむプロセスである「オンボーディング」のタイミングです。弊社の実施したインターネットサーベイで、転職経験者187名を対象に「転職直後の3か月、現在の会社で何が分からず困りましたか(3つまで)」と聞いた結果(「分からずに困ったことはない」を除き、上位5つを抜粋)が、以下の通りです。
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※転職直後の3か月、現在の会社で何が分からず困りましたか。(3つまで)
4位の「新たに必要な知識・スキルの身に着け方」は、汎用的な情報へのアクセスを問題視している訳ですが、それより上位の1位「会社・職場の制度やルールの内容」、3位「他のメンバーの名前・所属・役割などの基礎情報」は、まさに「会社固有の情報」です。この背景には、すでにその会社で長く働いている人は「知っていて当たり前」な情報ほど、問題を感じる機会もないため、可視化や整理といった情報伝達の努力がされづらい、ということもあるかもしれません。また、あまりに地味な情報のため、注目して解決するモチベーションがわかない、ということもあり得るかと思います。
会社固有の情報をストックするSaaSツール
普段から困りごとになりやすい「会社固有の情報」のやりとりは、オンラインでのやりとりを強いられるリモートワーク下では、さらに難易度が高まります。
すでに会社の制度やルールがQ&Aなどの形でオンライン上にデータベース化されている、という方もいらっしゃるかもしれません。しかしながらそのデータベースは、どれだけ普段利用されているでしょうか?「更新が滞り、使える状態にない」「閲覧者が一部に偏っている」「そもそも社内ルールのデータベースを使う方法が複雑で、その方法を入社者に教えなくてはならない」などの問題が発生しているケースも、多いのではないかと思われます。
近年では「Kibela」や「Qiita:Team」といったSaaSの社内コミュニケーションツールを利用して、社内ルール等の情報を「ストック」する方法を洗練させている事例も目にします。これらのツールは、UIが直観的にわかりやすかったり、少し遊び心があったりと、どの従業員でも使いやすいことにメリットがあります。また「社内wiki」と呼ばれるような「多数のユーザーが共同で編集できる」「その結果を検索できる」機能により、いつでも更新も検索もできるようなデータベースをつくることができるのも、特長の一つといえるでしょう。
<Kibela製品サイトから製品イメージ 会社固有の情報も、スキル・ノウハウも共有できる>
海外に目を向けると、Notion Labs社の提供する「Notion」というアプリがあります。Notion Labs社はサンフランシスコに拠点を置く2016年に設立されたスタートアップで、最近5000万ドル(約54億円)の資金調達に成功し、ユニコーン企業の仲間入りも果たしました。Notion Labs社の提供するツール「Notion」は、マクドナルドやIBMといった大手企業から、Notion Labs社と同様の勢いのあるスタートアップ企業まで、様々な企業で利用されています。
「ミレニアル世代のコストコ」とも呼ばれるECサービスを提供するBoxed社も、Notionを利用しています。CTOのWilliam Fong氏は、社内wikiの構築・運用のポイントを以下のように語っています。
(1) 一部の人ではなく、誰でも編集できるようにし、陳腐化を防ぐ
(2) 情報を階層化し、一つの場所からすべてにアクセスできるようにする
(3) ディスカッションができたり、コメントが残せたりする機能を用いて、インタラクティブなwikiにする
上記のポイントは、一見シンプルで、ツールさえあれば簡単に取り組めそうですが、意外と難しいかもしれません。例えば(2)は、情報を集約化しようとするほど「ユーザーが認識する選択肢が多くなる」か「情報の階層が深くなる」ことになります。しかしながら、選択肢の多さや階層の深さは、視認性が悪くなり、使いづらさにつながります。ある企業では、逆に「検索窓」だけをユーザーには見せて、検索性の良さを徹底的に追及する方策を取っているそうです。
社内ルールの整理というと、ともすれば地味で面白みがないと捉えられてしまうかもしれませんが、「いかに使ってもらうか」を考えて、システム構築やツール運用をすることは、とてもクリエイティブなプロセスです。
とはいえ、最後は「人」につながりたい?
使いやすく、分かりやすい社内wikiができたから完璧か、というと、そうでもないのがまた辛いところです。日常生活でも、インターネットで検索するよりも、その道のエキスパートに聞いた方がはやいとか、丁寧だとか、期待値を超えた対応をしてくれる、といった理由で、やっぱり「人」に頼りたいと思う場面も多くあるでしょう。そんなニーズに対して、リモートワーク環境下では、web会議システムの導入やチャットツールの活性化などで、「対面のコミュニケーションをいかに再現するか」に苦心しがちですし、それもまた一つの打ち手であることは確かです。
しかしながら、もう一つの方策として「人起点のデータベースをつくる」というのもあり得るでしょう。社員の役割や現在の業務、これまでの経験、資格やスキルを検索可能なデータベースとすることで、「誰に聞いたらよさそうか」という情報にたどりつくことをサポートするという発想で、タレントマネジメントシステムを活用することがカギとなります。そしてタレントマネジメントシステムも、社内wikiも、「会社固有の情報」への社員のアクセスをサポートするツールとして、アフターコロナの世界でも活躍してくれることでしょう。
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
- 配信日:2020/02/27
- サンプル回収数:300サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳~69歳
性別:男女
配信地域:全国
対象条件:取締役クラス~ 一般社員の方
備考:本記事掲載の設問は転職経験者のみ187名が対象
<設問と回答選択肢>
問:■転職経験者のみにお伺いします■ 転職直後の3か月、現在の会社で何が分からず困りましたか。(3つまで)
選択肢:上司の名前・所属・役割などの基礎情報/上司の性格やコミュニケーションスタイル/他のメンバーの名前・所属・役割などの基礎情報/他のメンバー(上司を除く)の性格やコミュニケーションスタイル/会社・職場の制度やルールの内容/業務アプリケーション等の社内システムの使い方/会社・職場のビジョンや価値観、行動規範などの方針/設備や備品の使い方/自身の業務や仕事の進め方/新たに必要な知識・スキルの身に着け方/その他/分からずに困ったことはない
Kibela製品サイト
Forbes JAPAN内記事 “タスク管理アプリNotionがユニコーン化、Slack出資元から54億円調達”
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