カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT

2021.06.16
調査

意外と簡単?人材データ分析・活用の現在地
~日本能率協会総合研究所との共同調査から~


 
“ピープルアナリティクス”や“データドリブンHR”などのワードが広く認知されるようになり、企業の人事・経営領域の課題解決においても、HRテックの活用がますます注目を集めています。一方で、人材データの分析活用状況については、経営トップへのフィードバックや、人事評価時の活用、特定の制度設計時の検討素材とするなど多岐にわたります。上記のような背景を踏まえ、この度、日本能率協会総合研究所とカオナビHRテクノロジー総研では、企業の現状における「人材データの分析・活用状況や取り組み」の実態を把握するためにアンケート調査を実施致しました。
「人材データ分析」というと、高機能なツールや高度な統計手法を用いるイメージがあり、「難しい」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。本記事では調査結果から一部をピックアップし、人材データ分析の実施状況を概観しますが、実は「意外と簡易なやり方でも、一定の成果が出せる」ということが、お分かりいただけるかと思います。
また今回の調査の詳細結果は、日本能率協会総合研究所のレポートからダウンロードが可能です。そちらも是非ご覧ください。

調査実施概要

  • 調査実施主体:日本能率協会総合研究所
  • 調査目的:人材データの分析・活用状況について、『人材戦略の指針・指標の設定状況等』 『経営層の姿勢・理解』 『人材データの保管・活用状況』 『分析の実施体制』『分析の実施内容』『分析への期待と成果・課題』等の観点から、現状と課題を把握する
  • 調査手法:Webおよび紙アンケート調査票(※配布は郵送)
  • 調査実施期間:2020年9月末~11月初旬
  • 調査対象:従業員規模300人以上の上場・非上場企業 配布数4,848社
  • 回収数:242社(約5%)
  • 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)

人材データ分析の実施状況

注目が集まる人材データ分析ですが、実際にどの程度の企業が取り組んでいるのでしょうか。

  • Q.貴社では、なんらかの人材データ分析を行っていますか。またはその予定はありますか(1つ選択)
    ※回答数は242

「貴社では、なんらかの人材データ分析を行っていますか。またはその予定はありますか。」という質問に対して、回答企業の38.0%は「分析を既に行っている」、34.3%は「3年以内に行う予定がある」とのことでした。「ヒト」を扱うことから、データ化が難しいと言われてきた人事領域ですが、72.3%は人材データ分析の活用を視野に入れているということに、裾野の広がりを感じます。

どのようなツールを用いているのか?

人材データ分析の活用を視野に入れている企業は、どのようなツールを使用中、あるいは使用しようとしているのでしょうか。

Q.貴社では、人材データ分析はどのようなツールを用いて行っていますか(複数選択可)
※人材データ分析を「既に行っている」「3年以内に行う予定」と回答した企業が対象で、「3年以内に行う予定」の場合は予定を回答。回答数は175で、以降図5まで同様

66.9%の企業が「エクセル・アクセス」といった、比較的簡便なツールを用いている、あるいは用いようとしているようです。「エクセル・アクセス」は他のツールと併用することが多いことも、利用率の高さに寄与していると思われます。次点は「タレントマネジメントシステムなどのクラウドサービス」で45.1%、そのほかのBI、統計分析、テキストマイニングなどの高度な分析ができるツールの利用は10%未満に留まっています。現在の人材データ分析は、因果の推論や自社固有の法則を見つけ出す営みというよりは、人材情報を明らかにし、図表等で可視化することが中心的な営みであるとこの結果から推測することができそうです。

人材データ分析の実施体制は?

人材データ分析の実施体制についても聞いています。

Q.貴社では、人材データ分析をどのような体制で行っていますか(複数選択可)

「専門組織は設置していないものの、人事部内にデータ分析担当者をおいている」の回答が最多の60.6%となり、続いて「人事部内に専門組織を設置している」が12.0%、「社内の他部門(マーケティング部門・データアナリティクス部門等)と協力している」が10.3%となっています。また、外注をしている企業は少数であることも分かります。

人材データ分析時に活用されるデータの種類は?

人材データ分析時に活用されるデータの種類は、どのようになっているでしょうか。

Q.貴社では、人材データの分析時にどのようなデータを活用していますか(複数選択可)

「属性情報(年齢、勤続年数、部署、異動情報、職務経験情報、所有資格・スキル情報)」は非常に高く、93.1%が活用中あるいは活用予定です。これは属性情報がすでに多くの企業で管理されているということに加え、カテゴライズを行うために必要なデータであるという側面もあるでしょう。次点では「評価情報」が68.6%、「給与情報」が60.6%となっており、活用度合いが高くなっています。こちらも、評価・給与情報はそもそも管理がされているため活用の着手がしやすいという側面と、いわゆるハイパフォーマー分析等のニーズがあるという側面と、両面があると考えられます。「人事基本データ等」の中では、「勤怠情報」の活用度が低いですが、それでも49.1%の企業は活用中あるいは活用を検討しているようです。
「意識・志向データ」も「健康に関する情報」を除くと3~5割程度の企業が活用中あるいは活用予定とのことです。従業員エンゲージメントやワークエンゲージメントへの注目が昨今集まっていることも、背景にあるかもしれません。「健康に関する情報」はセンシティブな情報で活用がしづらいため17.1%と低調であると思われます。しかしながら、テレワークの広まりなどを受けて、「パルスサーベイ」等を用いた従業員の心身状態の把握をするトレンドはあるように思われ、活用しづらい情報ながら17.1%は取り組んでいるのだ、という解釈もできそうです。
「動的データ」に関しては、まだそれほど活用が進んでいないと言えそうです。高度な統計手法が必要なこと、特有の設備が必要なこと、また従業員のプライバシーの問題など、活用にあたりまだハードルが高いのかもしれません。

分析の内容は?

では、これらのデータを活用し、どの程度の分析を行っているのでしょうか。

Q.貴社では、人材データを用いた分析をどの程度おこなっていますか(複数選択可)


「人数、管理職比率、労働時間などの単純集計や指標把握」は88.6%と、非常に多くの企業が取り組んでいることが分かります。また「属性ごとのグループ間比較分析(部門・年齢別比較分析など)や経年比較」も68.6%と、比較的広く取り組まれているようです。それらと比較すると「統計的手法等を用いた要因・予測分析(退職要因・定着予測分析など)」の実施あるいは実施予定の割合は26.3%と低いですが、すでにそれだけの企業は高度な分析に着手している、あるいは着手予定であるという解釈も可能です。一方で「他社や市場ベンチマークとの比較分析」は7.4%と、射程に入っている企業は少数です。

人材データ分析はそれほど難しくはない?

人材データ分析の実施状況を様々な角度から見てきました。多くの企業が、比較的簡便なツール、体制、手法で、シンプルな分析に着手をしている様子が分かりました。
それでも、成果は出るのでしょうか?今回の調査では、人材データ分析をすでに行っている企業を対象に「得られた成果」についても、複数選択可の選択式で聞いています。「貴社で取り組んだ人材データ分析で既に得られた成果はありますか」という問いに対し、何等かの成果について記載された選択肢(例えば「従業員の満足度向上」等)を選択した場合は「明確な成果あり」とし、「明確な成果は得られていないものの、得られそうな手ごたえはある」という選択肢を回答している場合は「手ごたえあり」、「成果は得られておらず、今後もわからない」という選択肢を回答している場合は「成果なし」とした上で、下図を作成しています。

  • Q.貴社で取り組んだ人材データ分析で既に得られた成果はありますか(複数選択可)
    ※人材データ分析を「既に行っている」と回答した企業が対象。回答数は92

60.9%の企業で、明確な成果がありました。加えて19.6%の企業では「明確な成果は得られていないものの、得られそうな手ごたえはある」とのことで、ポジティブな成果認識があるようです。

実際の課題は何か

簡易な着手であっても一定の成果は出るようですが、それならば実際に課題になることは何でしょうか。

Q.貴社では、人材データ分析をおこなう上で、どのような不安・懸念や課題がありますか(複数選択可)
※回答対象は回答者すべてで、回答数は242


上位は「データの項目整備や管理・更新が不十分である(60.3%)」「データが散在している(53.7%)」「どのようなデータを用いれば効果的な分析ができるかわからない(50.4%)」となっています。3点目の課題は分析スキルの問題と言えますが、上位2つの課題はスキルというよりは、データ管理や運用の問題と言えるでしょう。
これまで多くの企業で人材情報は、基幹システム、業務システム、紙、エクセルと様々に保管されていると思われますが、人材データ分析を進めようとする際には、点在するデータの一元管理は確実に必要です。そして一元管理をしようとすると「同様の項目でも、システム間で単位が違う」「分析に使いたいデータなのに、更新されていない」といった問題が噴出します。人事部を中心にこういったハードルに何とか対処しているというのが、人材データ分析のリアルな現在地なのかもしれません。図2にて、人材データ分析のツールとして「タレントマネジメントシステムなどのクラウドサービス」を利用あるいは利用予定の企業が45.1%となっていました。タレントマネジメントシステムはこのように、分析実施自体に用いられもしますが、むしろ分析の前段階としての人材データの収集、一元管理を強力にサポートするツールです。
 
また今回の調査では、「エクセル・アクセス」といった簡易なツールで分析が広くなされていることが分かりましたが、複雑な分析よりもシンプルな可視化が期待成果を得るためには妥当であるというケースもあります。例えば「優秀人材の発掘」であれば、もちろん「評価データと属性データを用いて重回帰分析をすること」がヒントになるケースもあれば、「シンプルに高業績者を抽出して眺めること」がヒントになることもある、ということです。後者のシンプルな可視化は、タレントマネジメントシステムが得意な領域でもあります。
「人材データ分析」といっても、まずは難しいことからやろうとせずに、データ整備と可視化から着手してみる。これくらいが、ちょうどよい塩梅なのかもしれません。
 
 

【サーベイ調査概要】

<実施詳細>

  • 調査実施主体:日本能率協会総合研究所
  • 調査手法:Webおよび紙アンケート調査票(※配布は郵送)
  • 調査実施期間:2020年9月末~11月初旬
  • 調査対象:従業員規模300人以上の上場・非上場企業 配布数4,848社
  • 回収数:242社(約5%)

 
<設問と回答選択肢>
:貴社では、なんらかの人材データ分析を行っていますか。またはその予定はありますか。(1つ選択)
選択肢:分析を既に行っている/3年以内に行う予定がある/当面行う予定はない/その他(自由記述)
 
:貴社では、人材データ分析はどのようなツールを用いて行っていますか。(複数選択可)
※「3年以内に行う予定がある」場合は、予定をご回答ください。
選択肢:エクセル・アクセス/BIツール/統計分析ツール/テキストマイニングツール/タレントマネジメントシステムなどのクラウドサービス/その他(自由記述)/わからない(排他選択肢)
 
:貴社では、人材データ分析をどのような体制で行っていますか。(複数選択可)
※「3年以内に行う予定がある」場合は、予定をご回答ください。
選択肢:人事部内に専門組織を設置している/専門組織は設置していないものの、人事部内にデータ分析担当者をおいている/社内の他部門(マーケティング部門・データアナリティクス部門等)と協力している/大学・大学院や学術分野の団体・組織に外注している/シンクタンクやコンサルティング企業などに外注している/その他(自由記述)/わからない(排他選択肢)
 
:貴社では、人材データの分析時にどのようなデータを活用していますか。(複数選択可)
※「3年以内に行う予定がある」場合は、予定をご回答ください。
選択肢:属性情報(年齢、勤続年数、部署、異動情報、職務経験情報、所有資格・スキル情報など)/評価情報/給与情報/サーベイ・意識調査などの組織情報/適性検査(アセスメント)やコンピテンシー関連の情報/自己申告シート・アンケート・日報などのテキスト情報/コミュニケーションツール・メールのログ情報/健康に関する情報/勤怠情報/位置情報(会社内位置情報)/音声情報/表情などの画像情報/その他(自由記述)/わからない(排他選択肢)
 
:貴社では、人材データを用いた分析をどの程度おこなっていますか。(複数選択可)
※「3年以内に行う予定がある」場合は、予定をご回答ください。
選択肢:人数、管理職比率、労働時間などの単純集計や指標把握/属性ごとのグループ間比較分析(部門・年齢別比較分析など)や経年比較/他社や市場ベンチマークとの比較分析/統計的手法等を用いた要因・予測分析(退職要因・定着予測分析など)/その他(自由記述)/わからない(排他選択肢)
 
:貴社で取り組んだ人材データ分析で既に得られた成果はありますか。(複数選択可)
選択肢:売上・利益率向上/労働時間削減/従業員の満足度向上/顧客の満足度向上/離職率低減/採用効率化/教育研修への活用/優秀人材の発掘/特定の目的(海外派遣など)に適した人材の抽出/上司部下マッチング等から組織構成に活用/業務効率化の促進/新規事業の創造/経営上のKPI指標に設定しモニタリング/社内不正の防止/データドリブンカルチャーの促進/社内の部門間連携の強化/明確な成果は得られていないものの、得られそうな手ごたえはある(排他選択肢)/成果は得られておらず、今後もわからない(排他選択肢)/その他(自由記述)
 
:貴社では、人材データ分析をおこなう上で、どのような不安・懸念や課題がありますか。(複数選択可)
選択肢:データが散在している/データの項目整備や管理・更新が不十分である/どのようなデータを用いれば効果的な分析ができるかわからない/費用対効果がみえづらい/専門的な人材が不足している/データ利用に関する本人(従業員)の同意プロセスが不明瞭である/経営層のコミットが弱い/データよりも勘や経験を重視しがちな風土/その他(自由記述)

 

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