カオナビHRテクノロジー総研調査レポートREPORT
まん延防止等重点措置の影響は? ~2022年2月 リモートワーク実態調査<後編>~
サーベイの背景
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレワーク、在宅勤務、リモートワーク等の「出社をしない」働き方(以降、すべての働き方を含めて「リモートワーク」とします)を始めた方も多いのではないでしょうか。カオナビHRテクノロジー総研では、コロナ禍で初めての緊急事態宣言下でのリモートワーク実施率を2020年5月に計測してから、継続的に調査を実施しており、この度2022年2月にも調査を実施しました。
調査実施期間である2022年2月8日から2月10日は、18の都道府県(北海道、青森県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、石川県、岐阜県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、香川県、熊本県)でまん延防止等重点措置が発令されていました。まん延防止等重点措置は、飲食店事業者への要請事項はあるものの、企業に従業員の働き方について直接的に何かを要請するものではありません。しかしながら、該当地域の住民に不要不急の外出の自粛を要請はしており、働く人自身がリモートワークを選択する可能性もありますし、企業が斟酌し出社制限をかける可能性もあり、リモートワーク実施率に何等かの影響があったとしてもおかしくはありません。
2020年5月および8月、2021年1月に実施したリモートワーク実態調査の結果とも比較しながら、リモートワークの今を考察していきます。<前編>では、全国のリモートワーク実施状況と居住あるいは勤務地域別の傾向を見ていきましたが、今回の<後編>では、会社規模、職種、業種別に2022年2月のリモートワーク実施率についての調査結果を見ていきます。
サーベイの概要
今回は以下の要領にてインターネットを用いたサーベイを実施致しました
- サーベイ対象:20歳以上60歳未満の自由業を除く有業者10,752名
- サーベイ期間:2022年2月8日(火)~2022年2月10日(木)
- サーベイ内容:Web上でリモートワークについての質問項目に、選択・記述式で回答
- 結果の集計・分析:回答結果を集計し、差異や傾向を抽出(回答の構成比は小数第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはなりません。そのため、グラフ上に表示される構成比での計算結果は、実際の計算結果とずれが生じる場合があります)
<前編>の調査結果まとめ ~まん延防止等重点措置の影響は?~
<前編>で明らかになった調査結果は、以下の通りです。
- 調査結果① 2022年2月のリモートワーク実施率は全体で20.6%
- 調査結果② 「毎日出社」の割合は調査開始以降、過去最多の75.8%に
- 調査結果③ まん延防止等重点措置の地域の居住者のリモートワーク実施率は24.3%、その他地域は10.8%と差はあるが…
- 調査結果④ 勤務地域別でも、首都圏(=一都三県)のリモートワーク実施率が33.3%と引き続き高い
- 調査結果⑤ まん延防止等重点措置下の首都圏勤務者のリモートワーク実施率は2020年12月の無発令時期と同水準
それでは<後編>は会社規模別のリモートワーク実施率から見ていきましょう。
調査結果⑥ 引き続き従業員数の多い会社でのリモートワーク実施率が高く、5,000人以上の会社では34.6%
まずは会社規模別のリモートワーク実施率を見てみます。「10人未満」を除くと、従業員数は多いほどリモートワーク実施率は高くなっています。「5,000人以上」の会社に勤務する人は34.6%がリモートワークを実施しており、会社規模別では最多です。一方で「10~49人」のリモートワーク実施率は11.4%となっており、最少です。「10人未満」のカテゴリーは相対的な位置に少し変動があることもありますが、それ以外のカテゴリーでは「従業員数は多いほどリモートワーク実施率は高い」という傾向が、2020年5月の調査開始時より一貫しています。
調査結果⑦ 「事務系管理職」「事務職・技術系事務職」「営業職」の3職種が引き続きリモートワーク実施率上位に
職種別のリモートワーク実施率の上位3職種は、「事務系管理職」が36.6%、「事務職・技術系事務職」が29.7%、「営業職」が28.6%となり、いわゆる“オフィスワーカー”の職種が並びます。
調査結果⑧ オフィスワーカー3職種のリモートワーク実施率は30.3%
このオフィスワーカー3職種は、現場従業者が含まれる他職種と比べると、リモートワークが比較的容易と思われます。その3職種に限れば、リモートワーク実施率は30.3%となり、全職種を含めた場合の実施率である20.6%と比較すれば、10ポイント程度高くなっています。
前回調査時のオフィスワーカー3職種のリモートワーク実施率と今回の結果を並べてみたのが図4です。2020年12月は特に発令等はない時期で、2021年1月は一都三県の緊急事態宣言が発令されていた時期であり、今回2022年2月は18都道府県でのまん延防止等重点措置が発令されていた時期となります。こう見ると、今回は2020年12月の無発令の時期と比較すると、まん延防止等重点措置の影響は見受けられないどころか、「出社とリモートワークを併用」は微減、「毎日出社」は微増しているため、わずかながら出社回帰の傾向が見られるといえるでしょう。
調査結果⑨ 2020年12月と比較すると、「営業職」はリモートワーク実施率が低下
オフィスワーカーの中でも、リモートワーク実施率の変化が見られたのは「営業職」です。営業職の2020年12月のリモートワーク実施率は37.1%でしたが、今回2022年2月は28.6%と、8.5ポイント低下となりました。他の2職種は、リモートワーク実施率の2020年12月から2022年2月の変動でいうと、事務系管理職は1.1ポイント上昇し、事務職・技術系事務職は1.4ポイント低下となっており、営業職の低下幅の大きさが目立ちます。
本調査から営業職のリモートワーク実施率が低下した理由を明言することはできませんが、一般的に営業職の特徴として
- 顧客との直接の接点を持つため、顧客の要求により働き方が規定されやすく、外出機会が多い
- 顧客を起点とし、社内の他職種と協働する機会も多い
- OJTによる育成やチーム単位でのマネジメント手法が比較的取られやすい
- 業績や目標が数字で可視化され、プレッシャーがかかりやすい
といったものが挙げられ、出社を促進する要因あるいはリモートワークを抑制する要因となっているのかもしれません。
調査結果⑩ 業種では引き続き「IT・インターネット」のリモートワーク実施率が顕著に高く、61.8%
業種別のリモートワーク実施率は「IT・インターネット」が61.8%と顕著に高く、これは過去の調査から一貫した傾向です。今回調査のリモートワーク実施率TOP5は、IT・インターネット、マスコミ・広告、メーカー、通信・インフラ、金融となっています。このTOP5内での変動はありますが、この5業種のリモートワーク実施率が他業種より高いのは過去の調査から一貫しています。この5業種は、調査結果⑨で言及したオフィスワーカー3職種の割合が高い5業種でもあり、産業の性質でオフィスワーカーが多ければ、リモートワーク実施率が高まることが予測されます。
調査結果⑪ 緊急事態宣言発令時にはリモートワーク実施率が上がる「金融」は、今回は上がらず
このTOP5業種の中で「金融」は、回答者に占めるオフィスワーカー3職種の割合が94.0%と最も高く、次点の「IT・インターネット」が83.6%であることを鑑みると、顕著にオフィスワーカーが多い業種と言えます。しかしながら、今回の「金融」のリモートワーク実施率は25.7%と、全体平均の20.6%よりは高いものの、それほど高い訳ではありません。
金融のリモートワーク実施率は、2020年5月から調査を開始して以来、上下が大きいことが特徴的です。
「金融」のリモートワーク実施率は2020年5月の初の緊急事態宣言時には50.6%と高く、宣言解除後の2020年8月には28.6%に下がりました。2021年1月には39.9%と上昇しましたが、これは一都三県で緊急事態宣言が発令されていたことが影響していると考えられます。公的な要請に敏感に反応するのも、金融業種の特徴と言えるかもしれません。しかしながら、今回2022年2月は18都道府県でまん延防止等重点措置下でしたが、リモートワーク実施率は過去最低の25.7%となりました。「金融」に絞っても、まん延防止等重点措置はリモートワーク実施に影響を与えなかったといえるでしょう。
今回の調査結果のまとめ
今回調査で明らかになった調査結果は、<前編>に掲載のものも含め、以下の通りです。
- 調査結果① 2022年2月のリモートワーク実施率は全体で20.6%
- 調査結果② 「毎日出社」の割合は調査開始以降、過去最多の75.8%に
- 調査結果③ まん延防止等重点措置の地域の居住者のリモートワーク実施率は24.3%、その他地域は10.8%と差はあるが…
- 調査結果④ 勤務地域別でも、首都圏(=一都三県)のリモートワーク実施率が33.3%と引き続き高い
- 調査結果⑤ まん延防止等重点措置下の首都圏勤務者のリモートワーク実施率は2020年12月の無発令時期と同水準
- 調査結果⑥ 引き続き従業員数の多い会社でのリモートワーク実施率が高く、5,000人以上の会社では34.6%
- 調査結果⑦ 「事務系管理職」「事務職・技術系事務職」「営業職」の3職種が引き続きリモートワーク実施率上位に
- 調査結果⑧ オフィスワーカー3職種のリモートワーク実施率は30.3%
- 調査結果⑨ 2020年12月と比較すると、「営業職」はリモートワーク実施率が低下
- 調査結果⑩ 業種では引き続き「IT・インターネット」のリモートワーク実施率が顕著に高く、61.8%
- 調査結果⑪ 緊急事態宣言発令時にはリモートワーク実施率が上がる「金融」は、今回は上がらず
今回調査では、まん延防止等重点措置が発令される地域がありましたが、リモートワーク実施率は発令等のない2020年12月の水準と同等となりました。勤務地域/会社規模/職種/業種別に実施率を見ても、過去の調査で見られた傾向を改めて確認できたといえるでしょう。無発令時期と同水準であることに加え、「毎日出社」の割合が過去最多の75.8%となったことから、わずかに出社回帰の兆候があるとも言えそうですが、まん延防止等重点措置の解除後にどのような結果となるか、改めて調査をしたいところです。全体としてまん延防止等重点措置によるリモートワーク実施率の上昇は見受けられず、緊急事態宣言時にはリモートワーク実施率が上昇する「金融」業種でも、今回上昇は見られませんでした。全体的な傾向はあまり変化がない中で、職種では「営業職」でリモートワーク実施率が低下傾向を示しています。
日本全体でのリモートワーク実施率は高いとは言えませんが、それでも少なくとも2割程度の人は常にリモートワークをしているというのは、コロナ禍前と比較すれば大きな変化です。2020年8月の調査では、リモートワークが勤務時間の50%以上をこえる回答者の所属組織では7割以上が「リモートワークの継続」を決めていましたが、今回調査が過去調査の傾向と同様であるということも踏まえれば、「リモートワークは定着しているところでは定着している」と言えそうです。リモートワーク実態調査は継続的に実施する予定ですが、リモートワークの定着も見られる中、今後は「リモートワーク」と「出社」による働く人の実感の差に着目した調査が可能となりそうです。
【インターネットサーベイ調査概要】
<実施詳細>
- 配信:2022/2/8
- サンプル回収数:10,752サンプル
- 配信・回収条件
年齢:20歳以上60歳未満
性別:男女
配信地域:全国
対象条件:有業者(自由業を除く)
<設問と回答選択肢(今回調査)>
問:直近1ヵ月の就業場所への出社状況について教えてください。
選択肢:基本的に毎日、就業場所に出社して働いている(勤務時間の90%以上が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は就業場所に出社し、それ以外は出社せずにリモートワークで働いている(勤務時間の50~89%程度が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社している(勤務時間の10~49%程度が出社で、その他がリモートワーク)/基本的に毎日、リモートワークで働いている(勤務時間の10%未満が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、勤務の際は就業場所に出社している/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、就業場所への出社とリモートワークを併用している/完全に休業している/その他(自由記述)
<結果の集計における備考>
本レポート内の「出社とリモートワークを併用(している)」いう表現は、上記の選択肢のうち
勤務時間の半分以上は就業場所に出社し、それ以外は出社せずにリモートワークで働いている(勤務時間の50~89%程度が出社で、その他がリモートワーク)/勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社している(勤務時間の10~49%程度が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、就業場所への出社とリモートワークを併用している が含まれる。
また「毎日出社(している)」には、基本的に毎日、就業場所に出社して働いている(勤務時間の90%以上が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている が含まれ、「毎日リモートワーク」には、基本的に毎日、リモートワークで働いている(勤務時間の10%未満が出社で、その他がリモートワーク)/部分的に休業もしくは休暇を取りながら、それ以外はリモートワークで働いている が含まれている。
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